CDさん太郎 VOL.16 2019/5/2、7購入盤

 こんにちは。本記事はCD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第16回目になります。今回は2019年5/2、東京・池袋と吉祥寺で、7日に神奈川・向ヶ丘遊園で購入したCDを計11枚紹介します。

 今回は前置きなくソリッドに行きます。
 本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。 

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:ナジャ
タイトル:チイホチョホイ
発売年:1989年
レーベル:ポリスター
入手場所:ディスクユニオン池袋店
購入価格:380円
寸評:88年に『Nadja First』でデビューした女性シンガー、ナジャによるセカンド・アルバムです。トータルプロデュースを牧村憲一と美濃部忠裕が担当し、「月」、「日」、「星」とコンセント分けしたそれぞれの楽曲を、清水靖晃、スライ・アンド・ロビー、井上鑑らが入り乱れてアレンジする本盤、その存在は以前から知っていたのですが、この度非常な安価で発見し、購入。本作が今再び注目を集めているのは、なんといっても清水靖晃の参加によるところが大きいでしょう。同じ頃の清水氏といえばエスノ色強いワールドミュージックに接近していた時期なので、このアルバムにおける担当曲でもそういった音楽傾向を強く反映したものになっています。このあたり、anoutaさんが提唱されている新概念「トレンディ・エスノ」にも強くリンクする(実際にブログでも取り上げれています)、当時の日本におけるワールドミュージックキッチュな受容感覚が鮮やかに表出したものと理解することが出来るでしょう(要は、中村とうようが怒り出しそうなワールドミュージックです。)。ジャケットはエキゾ・ラウンジ風ですが、実際はもっとコンテンポラリーな質感を湛えています。井上鑑のアレンジ曲も相当に素晴らしく、氏のファンク・サイドがクールに顕現。スラロビによる非レゲエ曲も謎にキャッチーで、彼らにこれをあえて割り振ったのだろうなという不思議なミス・マッチ感が素敵。後藤浩明アレンジ曲では牧村コネクションで小沢健二も作詞に参加するなど、実に味わいどころの多い名盤だと思います。ブックレットも敢えて綴じ込みにせず豪奢なビジュアルの見開きペラを曲ごとにバラで封入するなど相当に凝っており、まさにあの時代ならではの「都会の大人」の粋。これ、LP化したら相当売れると思いますね。ちなみにナジャさん、現在は「日向さやか」の名でワールドミュージック系DJとして活動されています。


2.

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アーティスト:近藤名奈
タイトル:7/360
発売年:1993年
レーベル:ファンハウス
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:100円
寸評:一般にいうガールポップについては今のところなんとなくハマれなさを感じており、シティポップ風味が強めなものを買う程度なのでした(実際には、シティ・ポップを期待して買ったらガールポップだった…ということが多いのですが。このところあまりその轍を踏むことは少なくなりましたが)。この近藤名奈のファースト・アルバムもこれまでCDショップで度々見かけていたのですが、そのたびにスルーしておりました。が、まあ100円ならいいかということで購入。ショートカットの似合う元気いっぱいなボーイッシュガールという、ジャケット等から発散するイメージ通りの楽曲たちがたくさん詰め込まれています。演奏陣が青山純鳥山雄司土方隆行、長岡道夫など「おっ」っという感じなのですが、まあ、そつのないフツーの演奏…。シティポップに分類可能なものを探すのはかなり困難なのですが、リズムパターンに「ナイト・イン・ニューヨーク」をかすかに感じさせるM1、隙間を活かしたミニマルなアレンジが(ガールポップ系では)珍しいM2の冒頭2曲はかすかにそれっぽい雰囲気を匂わしています。まあ、そもそもそういう聴き方をする作品では無いかなとも思いますが…。


3.

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アーティスト:和田加奈子
タイトル:VOCU
発売年:1988年
レーベル:EASTWORLD(東芝EMI)
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:580円
寸評:和田加奈子もまた一般的にはガールポップとくくられることもあるかと思いますが、上述したような、シティポップ寄りの方という認識があります。アニメ『きまぐれオレンジロード』での「夏のミラージュ」等で知られる歌い手さんですが、ライトメロウオタクのあいだでも『KANA』や『DESSERTに星くずのゼリーを』などでとみに評価が高い方でもあります。その魅力はなんといっても、少しキー低めのアダルティーな歌声にあるかと思いますが、キャリアを通して全般的に楽曲とアレンジが優れていることも大きいでしょう。この作品はその中からするとあまり言及されることの少ないかなという印象もあります。大半のアレンジを手掛けているのが白井良明氏なのですが、氏のロック志向が素直に反映されているため、ライトメロウ的感覚とは少しずれるのかな、と思います。ですが、各曲単位だとドゥービー・ブラザーズ「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」歌謡のM2、カイリー・ミノーグ「「I SHOULD BE SO LUCKY」の日本語カバー(PWLっぽい)などは面白いですし、謎にエキゾチックなM7(そう聴くとムーンライダーズ感もあるような)も好ましいです。

 

4.

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アーティスト:Selfish
タイトル:Dig it!
発売年:1994年
レーベル:SELFISH
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:100円
寸評:以前の「CDさん太郎」でもファーストアルバムを紹介したSELFISHによる、1994年リリースの2nd作。前作もなかなか本格的なブラックミュージックフィールを感じさせるものでしたが、US録音となったこちらでは更にパワーアップ。ソウル〜ブラックコンテンポラリーというよりは同時代的なR&Bサウンドを吸収したものといった印象です。するとやはりニュージャックスウィングっぽさが出てきたりするのですが、好き嫌いの分かれ道はそのあたりか。今なら全然ありという気がします。とあるところでハタさんが彼らのことを「黒いシング・ライク・トーキング」と呼称していましたが、実に言い得て妙ですね。演奏は自分たちに加え、ジノ・ヴァネリとの仕事で著名なカルロス・リオス、ビル・マイヤーズ(二人は編曲にも参加)といった現地ミュージシャン、鳥山雄司、百石元などを招いています。

 

5.

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アーティスト:横山輝一
タイトル:VOICE
発売年:1988年
レーベル:ファンハウス
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:280円
寸評:前年の87年にソロデビューした横山輝一が翌88年に発表した、名盤との誉れ高いセカンドアルバム。ヒットを経ての後のポリスター時代のCDは店頭でよく見かけるのですが、あまりこの時代のものは見かけないような気がしています(LPでも同様)。久保田利伸を始めとした和製ブラコンが盛り上がりを魅せた80年代終盤の空気を反映するように、全編にわたりそういった傾向のアレンジを聴けるアルバムとなっています。やや個性に薄いボーカルスタイルもあいまって、あまり「ソウルフル」という感触は受けず、どちらかといえばライトメロウ的なスムースネスが前景化する形となっています。その意味で、同時期も角松敏生にも通じる魅力を嗅ぎ取ることも可能かなと思います。曲単位だと、もろブラコンテイストなM2、M4、M8、メロウなスウェイビート曲M6あたりが良いです。


6.

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アーティスト:SHOGUN
タイトル:探偵物語 ミュージックファイル
発売年:1992年(オリジナル録音 1979円)
レーベル:VAP
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:380円
寸評:今現在まで含め、我が邦のTV番組サウンドトラックのリイシュー企画において、VAPが90年代初頭から送り出したシリーズ『ミュージックファイル』に匹敵する規模/質のものは未だ現れていないと断言します。リサーチャー/アーカイヴィストとして本シリーズのディレクションを行った高島幹雄氏の仕事は、日本音楽文化にとって燦然と輝くものだと言えます。さて、この『探偵物語』のサウンドトラック盤は、松田優作への継続的な人気はもちろん、あの有名なテーマ曲「バッド・シティ」の高い認知度もあり、同シリーズの中でもとくに好評だったようです。当時、ドラマの成功を受けてSHOGUNが「バッド・シティ」を再録音した名盤『ローテーション』をリリースしたこともあり、世代を超えたスタンダードとなりました。そう、実はドラマで使用されているバージョンは手に入りやすい『ローテーション収録版とは違うものなのです。ということで、まずこの盤の価値はそれが聴けるということにあります。また、これが音盤としては初出となる他スコアがまとめて聴けるというのも大きな魅力でしょう。現在の感覚からいうと、正直「バッド・シティ」よりそれらの方が面白いですね。ドラマの劇調も含めてあきらかに強く意識されていたであろうブラックスプロイテーション映画、特に探偵モノたる『シャフト』(音楽:アイザック・ヘイズ)からの影響は濃厚で、非常にカッコいいですね。まさに劇伴のスタンダード。

 

7.

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アーティスト:ピンク・クラウド
タイトル:KUTKLOUD
発売年:1988年(オリジナル:1982年)
レーベル:VAP
入手場所:BOOK OFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:108円
寸評:ジョニー・ルイス&チャーからピンククラウドへ改名してからのアルバム。チャーはもちろん、ジョニー吉長のソロ作にもシティポップ的に素晴らしいものがあるのは知られていますが、じゃあ彼らバンドの作品はどうなのかなというと、セッションプロジェクトというイメージが強いこともあり、一般的には「まあロックすよね?」と見做されているかなと思います。正直これまで私もそういった認識でいたのですが、あの『Light Mellow 和モノスペシャル』に本盤が載っているではありませんか。爾来、「安く見つけたら買おってみよう」と思っていたところに、激安値で遭遇という物語。ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスやジェフ・ベック・グループを下敷きにしているだろうロック的な曲はここでは置くとして(それはそれでとても良いんですが)、シティポップ的に「アリ」な曲を拾うとしましょう。まず、M5。ファルセット使いの極上のミニマルメロウソウル。素晴らしい…。シュギー・オーティス味のあるチルアウトメロウM6、素晴らしい…。まさかのダバダバ系ブラジリアングルーヴM7、ほぼ完璧と言っていいシャキシャキ感満天のミニマルシティポップ小品M8。素晴らしい…。生音志向&小編成な分、メロウな曲を演奏するとソロ独立後の坂本慎太郎氏にも近いミニマリズムが偶然生まれてしまっているというか…。聴かず嫌いは損ですね。

 

8.

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アーティスト:風コーラス団
タイトル:愛色の季節
発売年:2003年(オリジナル:1975年)
レーベル:キング
入手場所:BOOKOFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:500円
寸評:ティン・パン・アレイ関連の中でもあまり知られていないと思われる、風コーラス団による1975年作。以前からLPで欲しかった盤なのですが、結構な金額を出さないとゲットできないなということもあり、躊躇し続け…そんな中、めちゃくちゃお買い得な価格でCDを発見。後の2013年にライブ録音をもう一曲加えた体裁で再々発盤が出ているのですが、この値段ならこれで十分満足ですね…。風コーラス団はヤマハポプコン関係のボーカル&インストゥルメンタルグループで、その名の通り美しいコーラスワークを聴かせてくれる方々です。そもそもはポプコンへの応募楽曲を演奏するハウスグループだったようです。それがどういった経緯でティン・パン・アレイとともにアルバムを作ることになったのかは謎めいております…。もちろんティン・パンは演奏だけでなく(細野晴臣が)全編に渡りプロデュースとアレンジを務めています。ソフトロックやソウル、各種米ロックを完全消化したアレンジは、本当に流石の一言。同時代の世界的基準でいっても抜群のクオリティかと思います。(おそらくですが)ゾッピーズ・キャメルのマニアックbut鬼名曲「ファゾン」を下敷きにしたのでは無いかと思われる(細野さんに会ったら問うてみたい、忘れていそうだけど…)M1、ショキショキしたギターカッティングが最高に気持ちいいいM5(フリーソウルクラシック感あり)、思い切りリトル・フィートなM7…全編まったくもって素晴らしいです。作曲は細野氏に加え、萩田光雄、吉野金次(作曲!)等。作詞では松本隆も一部参加しています。


9.

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アーティスト:YAS-KAZ
タイトル:SIYABONGA
発売年:1991年
レーベル:PONY CANYON
入手場所:BOOKOFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:500円
寸評:横倉裕に次いでこの『CDさん太郎』での登場頻度が高いかもしれない、ニューエイジ系打楽器奏者のYAS-KAZポニーキャニオン時代の作品はどれを買ってもハズレというものがなく、見かけるたびに買ってしまうのでした。が、これ、買ってから気づいたのですが、当時TBSで放映された『ワトソン博士のアフリカ大博物館』というテレビ番組にテーマ曲として提供したタイトル曲を冒頭に据えたベスト盤でした(帯も付いていたのですが、そんなこと一言も書いてない…おい!)。海外編集の別のベストも持っているし、これまで所持している他のオリジナルアルバムでも聞ける曲が多く…なんだか損した気分…が、一応このベスト盤は上述のテーマ曲に合わせて「アフリカ」というテーマで選曲されており、そのあたりの一貫性は面白いと言えます。全編素晴らしいトライバルニューエイジの応酬なのですが、なんとも釈然としないのでした。

 

10.

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アーティスト:高垣直美
タイトル:ザ・ドラッグ 〜マインド・コントロールサウンド
発売年:1996年
レーベル:Della
入手場所:BOOKOFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:500円
寸評:「俗流アンビエントブルーノート」ことDellaによる、ミュージックドラッグシリーズの一作です。他に「アシッド」「マリファナ」というタイトルがありますが、これはそのものズバリ「ザ・ドラッグ」。潔いですね。他二作は正直あまり音楽的ではないと言うか、インダストリアル感強めの音色がウニョウニョと鳴っているなかでコラージュ的具体音が闖入するという珍品だったのですが、これは最も通常の鑑賞に耐えうる作品かと思います。というか、アンビエントテクノとしてかなり良いと言えます。パッケージ周りにまったくアーティスト情報が(例によって)ないのですが、アマゾンに残る商品ページの痕跡などをたどると、どうやら高垣直美さんというアンビエント作家の方が制作されたもののようです。この高垣さん、今世界的に再評価が巻きおこり中の小久保隆氏の弟子筋に当たる方らしく、この高クオリティにも納得という感じです。全3トラックが収録されているのですが、M1はバックグラウンドにたゆたうシンセに水泡音のような音が回転的にパンニングしながらウニョウニョと乗るという世界。M2は更にアンビエント色強めですが、途中から闖入する揺らぐ低音フレーズにどこかしらシリアスさが漂い、こうしたミュージックドラッグ系がよく参照するタンジェリン・ドリームルビコン』的な世界に近いものを感じさせます。そして、白眉はM3。これはもっとも1996年的同時代性を感じさせます。わかりやすくいえばThe Orb的なアンビエントテクノなのですが、SUN ELECTRIC的な天上感も随所に漂い、相当に面白いです。あえてビートの持続をスネアとクラッシュを混ぜたようなサンプリング音に任せていたり、音色の選択にも非常なセンスを感じます。名盤と言っていいかと思います。


11.

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アーティスト:MICKEY HART, HENRY WOLFF & NANCY HENNINGS
タイトル:YAMANTAKA
発売年:1991年(オリジナル 1983年)
レーベル:Celestial Harmonies
入手場所:BOOKOFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:500円
寸評:1972年にリリースした『Tibetan Bells』がルーツ・オブ・ニューエイジの名盤として高く評価されているヘンリー・ウルフ&ナンシー・ヘニングス。そのタイトル通り、チベタンベルやシンギングボールなどチベット仏教音楽を演奏するエクスペリメンタルデュオたる彼らに、グレイトフル・デッドのドラマーでこの時期ニューエイジ民族音楽に接近していたミッキー・ハートが加わった作品です。M1はひたすらに深ーい倍音と長ーい残響音が鳴り響く誠にドープな作品で、そんじょそこらのアンビエントを蹴散らす圧倒的瞑想効果があります(最初は不安を掻き立てられるのですが、聴いていると次第に時間の感覚が変質していくような…)。カラカラとしたベルの音が崇高と清涼を同時に運び込むM2も素晴らしいです。オリジナルのLPは各面1曲づつで、M3以降はCDリイシューに際してのボーナストラックとなっています。これもまた本編と同傾向のものが収録されていますが、(おそらくデジタル卓での録音となったためか)異様なハイファイさがあり、またそれにハッとさせられるのでした。「ちょっとリラックスしたいなあ」というノリで聴くとかえってヤバそう…彼岸に持っていかれそうになるというか…。実に素晴らしいです。

 

次回へ続く…。

CDさん太郎 VOL.15 2019/4/24、29購入盤

 こんにちは。本記事はCD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第15回目になります。今回は2019年4月24日に東京・吉祥寺で、28日に池袋で購入したCDを計11枚紹介します。

 

 ひたすら目の前のタスクをこなす日々にあって、「CDさん太郎」の更新がどうしても後手後手になってしまっており、この辺で自らに喝を入れなければと考えています。たとえば、目下の「CDさん太郎」を更新するまでその先へ更に積んであるCDを聴いてはいけない、あるいは購入してはいけない…など。いや、それをすると単にCDを買わなくなってしまいそうなので本末転倒か。一番良い方法は、買って聴いたら一枚一枚その場ですぐ書いて溜めておく、ということでしょうか。今回の更新の先にも、現在30数枚のCDが積まれている状況です。すみません、誰も気にないだろうことをダラダラと書いてしまいました。

 

 唐突に告知です。

 来週末6/9(日)、なんと本「CDさん太郎」の出張イベントがディスクユニオンのキャンペーン「DIVE INTO MUSIC」の一環として開催されることになりました。大丈夫なのでしょうか。場所はディスクユニオン新宿本館の1F、「du cafe新宿」にて、時間は16:00〜17;30を予定しております。本「CDさん太郎」にこれまで登場した盤を中心に持参しプレイするとともに、DU池部さんをお相手にあれこれトークする予定です。入場無料(要1ドリンクオーダー)です。是非お越しください。

 詳細はこちら:http://blog-shinjuku-rockcd.diskunion.net/Entry/375/

 

 本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。 

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:STEVE ROACH, KEVIN BRAHENY, MICHAEL STEARNS

タイトル:DESERT SOLITAIRE

発売年:1989年

レーベル:FORTUNA RAECORDS

入手場所:BOOKOFF吉祥寺店

購入価格:224円

寸評:米国南西部アリゾナ州ツーソンに本拠地を置いていたニュー・エイジ系レーベルFortuna Recordsからリリースされた米アンビエント系作家3名のコラボレーション盤です。中心となっているのはFortuna Recordsの筆頭アクトでもあるスティーブ・ローチ。各種民族打楽器なども取り入れたストイックな作風は、大味な感傷に流されがちな作風の人の多い米ニュー・エイジ界でも異端で、相当に良質な音楽センスの持ち主であると思います(2019年基準)。他の二人の作品も非常に奥ゆかしい静謐を携えたもので、ありがちな自己陶酔系ニュー・エイジになることを避けています。アルバム全体、シリアスな(従来の価値観における非ニュー・エイジ系の)アンビエント・ファンにもぜひ聴いてもらいたい充実の内容なのですが、特にM1は素晴らしい。米南西部の砂漠風景を実際に目にしたことがないので想像する他ありませんが、荒涼とした音像とアレンジが実にそれっぽく、カッコいい。要はエッジーで自覚的なムード・ミュージック。米本国ではかなりの名盤/定番とされているようで、アマゾンなどでも称賛する英文レビューが目立ちます。

 

2.

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アーティスト:MARK GOLDENBERG

タイトル:ある旅行者の手記

発売年:1987年

レーベル:KITTY

入手場所:BOOKOFF吉祥寺店

購入価格:224円

寸評:元々1980年デビューのクレトーンズという米西海岸のパワー・ポップ・バンド(いいバンドです。2枚のLPは激安で叩き売られているのをよく見る)でギタリストとして活動していたマーク・ゴールドバーグは、傍らでリンダ・ロンシュタットジャクソン・ブラウンといったビッグネームのサイドマンを務めるようになり、いつしか当初のパワーポップ魂はどこへやら、ソロ作品では完全にイージー・リスニング的な作品をリリースするようになるのでした。世界広しと言えども、パワー・ポップからニュー・エイジに転向した例は彼の他に無いような気がしますね…。この人はかつて日本で非常な人気があり、代表作『鞄を持った男』のジャケを見れば、安レコ/CDディガーなら「ああ、あの人ね〜」となるんじゃないでしょうか。当時爆発的に売れたからこそ今でもそれくらい目撃頻度が高いわけですが、なぜかといえば、一時期サントリーのTV-CMのサウンド・プロデューサーを努めていたゆえであり、『鞄を持った男』もそのタイアップに絡んで日本国内制作されたものなのでした。続く今作も日本制作で、基本的に前作を踏襲するような軟弱なニュー・エイジ〜イージー・リスニングなのですが、この人の持ち味であるヨーロッパ趣味(あくまで「それ風」というだけなのがミソ)が開陳されます。この80年代感バリバリのエセ観光音楽風味、実に寒々しく(良い意味で言ってます)、ほとんどそのまま初期Vaporwaveに通じる味わいが…あるような…ないような…。中村とうようがマイナス100点を付けそうな音楽です。寒々とした雨の日、今にも潰れそうなレジャー施設(そういうのも今や本当に片っ端から潰れて無くなってしまいましたが…)の誰もいないエントランス・ホールでかかっている音楽、というか。全体的に、鬱を誘発しかねない音楽が満載です。

 

3.

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アーティスト:村田和人

タイトル:GO POP

発売年:1988年

レーベル:EASTWORLD(東芝EMI)

入手場所:BOOKOFF吉祥寺店

購入価格:400円

寸評:「シティ・ポップの良心」(と私が呼んでいるだけですが。シティ・ポッピストの方にはこの感覚は伝わると思います)こと村田和人がMOONから東芝EMIへ移籍後リリースしたアルバムで、アニメ音楽などで突然変異的なメロウ仕事をしてきた名匠・幾見雅博氏がプロデュースした作品です。この作品の特長といえばその幾見氏の編曲と、大胆なエレクトロニクス・サウンドの導入でしょう。特にリズム・トラックはほとんどがドラムマシン(AKAI MPC-60)で制作されています。そこのところが旧来のシティ・ポップ・ファンからはあまりウケが良くないようですが、今となっては完全に気分なのでした。オーセンティックかつべらぼうにうまい村田氏のボーカルとエレクトロニクス・サウンドは確かにある意味でのミス・マッチ感もあるのですが、それこそあの時代のなせる業、旨味として味わいたいところです。アップだとエレクトロ・ファンク調、スロー〜ミディアムだとマーヴィン・ゲイ「セクシャル・ヒーリング」やアイズレー・ブラザーズ「ビトウィーン・ザ・シーツ」のような有機的エロさも漂い、実に良い。今クレジットを眺めていたら数曲でカーネーションの直枝政太郎(現:直枝政広氏)が作詞を手掛けており、そこ繋がりあったんですね…!とびっくり。

 

4.

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アーティスト:東正任

タイトル:E LA NAVE VA そして船はゆく

発売年:1987年

レーベル:クラウン

入手場所:BOOKOFF池袋サンシャイン60通り

購入価格:280円

寸評:現在はイベント企画や広告を手がける会社の代表を務め、実業界では大変に有名らしい(実業界にまったく興味がないので知らなかったのですが)東正任氏による歌手時代唯一のアルバムです。ジャケットや発売年からしてJ-AOR的雰囲気満点ですが、その実、まさしくそんな作品といえます。が、どこか芯を食ってない感じ≒空虚感が漂っており…。フェビアン・レザ・パネ勝又隆一といった編曲陣が参加していますが、なんというか、非常にそつなくて、だからこそあまり印象に残らないなあ…というのが正直なところ。ボーカルもどちらからといえば「ソングライター・ボイス」という感じで、レンジも狭め。それを逆手に取ってアレンジの妙で聴かせるわけでもないので、楽曲自体と東氏の歌唱法に巣食っているなんとも凡々とした歌謡感が目立つ結果に。スロウ〜ミディアムばかりなのも、「大人の色香」というより、ただ躍動感が無いだけに聞こえてしまうという不幸。ジャズ的解釈の曲も、お仕着せな「ジャジー」が支配し、ややキツイ。このあたりのイキリがのちにビジネスマンとして成功される片鱗なような気もします。

 

5.

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アーティスト:DARLIN'

タイトル:LOVE EDUCATION

発売年:1991年

レーベル:東芝EMI

入手場所:BOOKOFF池袋サンシャイン60通り

購入価格:280円

寸評:石田正人(ボーカル)と高田次郎(ギター)によるデュオ「ダーリン」のセカンド・アルバムです。まったく何の予備知識もなくほとんど賭けで買ってみたのですが、これは相当シンドいものがありますね…。オケだけ切り出してみると、「オッ」と感じる部分も稀にあるのですが、中途半端にロックに寄せたアレンジ(多分エアプレイ期前後のデヴィッド・フォスターを参考にしているような気がするのですが)が実にクサイのと、泣きのギター、そしてボーカルの過剰さがいかにもキツく…。CDジャーナルで「矢沢永吉がB'zに強制加入したような世界。あるいはクサくカッコつけまくったNOBODY!?」とイジられているんですが、まさにそうですねという感じ。名レビューじゃないでしょうか。メジャー発のポップスとしてもターゲッティングが謎すぎるし、結果、ポップスとしても何がしたいのかよくわからないものになってしまっている気がします(これで解散したようです)。スミマセンが、最後まで聴き通せませんでした…。

 

6.

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アーティスト:野村宏伸

タイトル:GUILTY

発売年:1990年

レーベル:ビクター

入手場所:BOOKOFF池袋サンシャイン60通り

購入価格:280円

寸評:「びんびんシリーズ」で御馴染みの俳優・野村宏伸によるアダルト路線のアルバム。lightmellowbuブログでタイさんが紹介しているのを読んで以来、是非手に入れたいと思っていたのをこの度入手。かなり詳細に渡ってタイさんが書いているので、私がここで繰り返すべきこともほとんどないですが、なんと言っても素晴らしいのは鷺巣詩郎・奥慶一の両氏によるアレンジですね。ふんにゃりした歌唱にリズミックな表情と色彩を加えることで、「俳優のアルバム」としての格をそれまでの作品から一つ上げている印象があります。個人的出色曲はやっぱりタイトル・ソングの「GUILTY」。素晴らしい。

 

7.

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アーティスト:柿原明美

タイトル:Refile

発売年:1993年

レーベル:ポリスター

入手場所:BOOKOFF池袋サンシャイン60通り

購入価格:280円

寸評:AKこと柿原明美による初期楽曲コンピレーション盤。今井美樹への曲提供でも名を上げた彼女ですが、現在のような体育会系になる前の作品を聴いてみると、改めてソングライターとしての才能にハッとさせられます…。これはおそらくシティ・ポップというより、オーセンティックなシンガー・ソングライター音楽の系譜として味わうのが正しいように思われます。演奏陣は青山純鳥山雄司松下誠美久月千晴など手練多数なのですが、遠山淳のアレンジの元、あえて滋味深い(はっきりいうなら地味な)演奏をすることにより、70年代シンガー・ソングライター的な品格が漂っています。この感じ、同時期の渋谷系の味わいとも遠からからずという感じで、ポリスター発とうのも影響しているのでしょうか。全体の印象としては、2000年代以降のアコースティック系女性シンガーソングライターの音楽を先取りしている感もあります。それにしても全曲素晴らしい…。今井美樹への提供曲もこちらの本人版のほうが大分良いなあと思ってしまします(元来ジャニス・イアンリッキー・リー・ジョーンズ、ジェニファー・ウォーンズなどが大好きなSSWおじさんなので)。

 

8.

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アーティスト:GWINKO

タイトル:EVERY GIRL

発売年:1989年

レーベル:CBSソニー

入手場所:BOOKOFF池袋サンシャイン60通り

購入価格:280円

寸評:沖縄アクターズ・スクール第一期生として若年でデビュー、シティ・ポップとは違った系譜でのダンス・ポップを推し進めた存在として今こそ再評価すべき(だと思う)GWINKOによる、脂が乗ってきた3rdアルバム。今になって聴くと、音楽的にも後の安室奈美恵らの素形になっている感じがしますね。もちろんTKサウンドほどにはバキバキのダンス・オリエンテッド路線ではないのですが、そのあたりの新世代への架け橋とでもいうべき折衷的な魅力があります。今作は全て海外ミュージシャンがプロダクションに関わったことで、より気ィの入った仕上がりに。竹を割ったようなエレクトロ・ビートに、抜群のリズム感とピッチ感で溌剌とした歌唱を載せてくる様に、快楽指数急上昇。作曲陣も、楠瀬誠志郎大沢誉志幸、羽田一郎など、一流ミュージシャンが大挙参加。めちゃくちゃ今DJユースだと思うし、リミックスなどを施される以前にこのままで既にフューチャーファンクっぽくないですか??という。付属のポスターに写るスタイリッシュな様も最高です。

 

9.

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アーティスト:梅林茂

タイトル:教師夏休み物語 オリジナル・サウンドトラック

発売年:1992年

レーベル:ファンハウス

入手場所:BOOKOFF池袋サンシャイン60通り

購入価格:280円

寸評:石橋凌主演、古尾谷雅人鷲尾いさ子近藤敦(バービーボーイズ)、萬田久子津川雅彦、川谷拓三(!)出演の日本テレビ系ドラマ『教師夏休み物語』のサントラ盤です。残念ながら私はドラマをリアルタイムで観た記憶が無いのですが、22:00から放送だったらしく、92年当時その時間にはもうネンネしてましたので見てないのも当然なのでした。ということでドラマ自体には触れることができないのですが、純粋にサントラだけを聴くとわりに面白い。音楽担当の梅林茂氏は、1981年に加藤和彦プロデュースの「EX」でバンドデビュー、その後映画音楽畑で活躍をした音楽家。角川〜東映と映画会社を股にかけながらも、かなり硬質の、というかアウトローチックな作品をよく手掛けている印象です。特に崔洋一監督の『友よ静かに眠れ』(85年)のスコアは素晴らしいです!ここでも梅林氏はその才能を発揮、なかなかに折衷的かつバラエティに富んだスコアを提供しています。主軸としてワールド・ミュージック感を据え、トロピカル感、ロック感、ニュー・エイジを混ぜ合わせていくような感覚といいますか。タイアップ・ソングだった陣内大蔵によるテーマ曲も冒頭に収録されていますが、これは蛇足。

 

10.

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アーティスト:佐藤準

タイトル:ポール・ポジション! 愛しき人へ…

発売年:1992年

レーベル:PONY CANYON

入手場所:BOOKOFF池袋サンシャイン60通り

購入価格:280円

寸評:『ポールポジション!愛しき人へ…』は1992年から1クールだけ放映されていた日本テレビ系の連続ドラマ。こちらも放送枠が22:00からだったということもあり(?)、私の記憶には全く残っていません…。F3レーサーを主人公とした作品だったようですが、第一話目のラストでいきなり加勢大周演じる主演が事故死し、二話目以降は同じく加勢大周演じるその弟が主役となるという、あだち充『タッチ』を圧縮したようなトリッキーな脚本だったようです。その加勢大周がジャケットにドーンと登場するこちらのサントラですが、音楽を手掛けたのは名匠・佐藤準今井美樹のアレンジ・ワークやソロ作のリリースなどを経て充実した活動を行っていた時期でもあり、実に手堅いライト・フュージョン風劇伴を寄せています。これに先行するソロ作『彩』(88年)、『Chaos』(90年)の斬新なアレンジ・アイデア溢れるニュー・エイジ風ライト・メロウぶりからすると物足りない感じがありますが、それでもさすがのクオリティと言えるでしょう。ピアノ独奏バラードの類は無視するとして、F3の疾走音をSEとして織り交ぜたスポーツ・フュージョンM2、気の抜けたヴァン・ヘイレンみたいなインストM7、アブストラクトさと繊細さのバランスが好ましいアンビエントM11あたりが聴きものです。

 

 

11.

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アーティスト:SKY LOVE

タイトル:超便利 効果音楽集 〜イメージ・アップ演出の決め手〜

発売年:1997年

レーベル:キング

入手場所:BOOKOFF池袋サンシャイン60通り

購入価格:280円

寸評:今回の目玉盤です。「効果音楽集」というのは、いわゆるよく見かける「効果音」CDとは違い、「あなたがオリジナルの映像作品を作ろうとするとき、適宜この音楽を貼り付けると巧い演出効果が期待できますよ」というもので、ホームビデオ文化浸透期に多く見られた商品ジャンルです。わけてもキングレコードはこの分野のトップ・ランナーで、様々なシチュエーションに応じた効果音楽集をリリースしています。これまで購入し所持しているだけでも、季節やムードごとにテーマ分けしたものなど色々とありますが、今回購入したのはおそらくそれらの決定版的な位置づけでリリースされたであろう2枚組CD。「オープニング」「アーバン」「パストラル」「アクティブ」「イメージ」「エンディング」というテーマ分けがなされ、さらにその中で「〜〜風の力強い曲」だったり、「朝もや、日の出をイメージして」など、具体的な曲説明が付属しており、確かに当時のホームビデオ作家のみなさんに易しいものとなっています。放送業界向けにプロ・ユースとして供給されるいわゆる「ライブラリー」音楽というのがありますが、本商品はその一般家庭向けのものと言えるでしょう。肝心の内容ですが、良い意味でありがちなハード/ライト・フュージョンのラッシュで、その全てがシンセサイザー/打ち込みで作成されています。演奏者のSKY LOVEというグループ名はおそらく実態の無いもので、実際のところはキングレコード学芸部門が懇意にする職業作家が委嘱を受け制作したものだと考えるのが妥当でしょう。2019年基準に照らしわせるならやはりロッキッシュなものよりライト・メロウかつニュー・エイジ風味のものが好ましく、「アーバン・タイプ」「アクティブ・タイプ」「イメージ・タイプ」に良い曲が多いように思います。特に、ビルの谷間の朝焼けのシーンに使用することをレコメンドされている「HORIZON DREAM」、ゆったり流れる大河をイメージさせる効果があるという「黄河の流れ」あたりは秀逸です。後者については私自身も最近のDjでよくプレイしています。

 

次回へ続く…。

CDさん太郎 VOL.14 2019/4/20 購入盤

こんにちは。本記事はCD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第14回目になります。今回は2019年4月20日東京・八王子周辺で購入したCDを計12枚紹介します。

スパイク・リーの『ブラック・クランズマン』を観に行くべく各映画館の上映時間を調べていたところ、近場ではうまい時間にやっていないことがわかり、それならとブックオフ巡りとくっつけていっそ遠方の劇場に行ってやろうとたどり着いたのたのが、TOHOシネマズ南大沢。35年地面に這いつくばってきましたが、この日初めて行きました。郊外シネコン特有のファジーなムードが漂っており、好ましかったです。

八王子周辺のブックオフについては、なかなか堅調だったといっていいかなと思います。かなりのペースで各店回ったので、まだまだ見落としが多々ある気がします。例によって電車でのアクセスが困難で行けなかった店舗もあり、近くレンタカーdigを開催したく思います。

 

唐突に告知です。

6/1、愛知県・蒲郡で毎年開催されている音楽フェスタ『森、道、市場』で、Dj係をさせていただくことになりました。大丈夫なのでしょうか。まだお客さんが寝ていたり会場に向かっている途中だろう時間帯なので、遠慮なく選曲させていただこうと思っております。

詳細はこちら  http://mori-michi-ichiba.info/

 

本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。 

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:松崎裕子

タイトル:Paradise

発売年:1996年

レーベル:ワールド・エンタテインメント

入手場所:BOOKOFF SUPER BAZAAR 八王子みなみ野

購入価格:500円

寸評:90年代に頻出した環境系写真家と音楽家のコラボレーションCDですが、これはその中でも相当な秀作と思われます。大体においてこうしたCDは、写真家の名前におんぶして音楽内容が陳腐、あるいは音楽が収録されているように見せかけてそもそもただの環境音(森とか海とかの)が収録されているだけというのが多く、俗流アンビエントDIGの鬼門なのですが、どうしてどうして良い作品に出会うこともあるのだなあ、という感じ。写真を担当している水口博也氏、その界隈では有名な方のようで、クジラやイルカなどの動物写真を得意にしているとの由。が、そういう情報はどうでもよくて、肝心の音楽内容、これがとっても良く。松崎裕子氏という方は、ネットで調べる限りほとんど情報がなく、この他に世界遺産をテーマにしたニューエイジ作があるだけのようです(プロスイマーの方で同姓同名の方がいらっしゃるようですが、海を扱った本CDのテーマ的にも遠からず…もしかして同一人物でしょうか?)。基本、ノンビートのアンビエントというよりはガムランなどを取り入れたミニマルミュージック調です(おそらくすべて打ち込み&シンセサイザー)。明らかに西アフリカ民族音楽に影響を受けた曲などもあり面白い。ムクワジュ・アンサンブルを俗的にした感じとでもいいますか、各楽器の旋律や音色から若干の歌謡臭が発散されていますが、それがまた珍妙なスパイスになっています。かなり目撃頻度の低いCDだと思いますので、見つけたら是非ゲットすることをオススメします。

 

2.

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アーティスト:鷲尾いさ子

タイトル:彼女の風

発売年:1987年

レーベル:ビクター

入手場所:BOOKOFF SUPER BAZAAR 八王子みなみ野

購入価格:280円

寸評:女優/モデルの鷲尾いさ子が87年にリリースしたミニ・アルバム。わたしの世代では、鷲尾さんといえば何をおいても「鉄骨飲料」ですね。そのお姿をテレビで拝見するたび「キレイな人だけどなんか他と違う感じ」を感得していたような気がします。このEPは全編フレンチテイストで彩られており、鷲尾さんのアンニュイなキャラクターに寄せてのディレクションだったのかなと想像する次第。自身もシャンソンシンガーや映画評論家として活動する遠藤突無也氏がプロデュースを務め、同時期の高岡早紀作品なども思わせる作風に。実際、ゲンズブール曲なども日本語カバーで取り上げ、その気の入れようは相当です。少しプレ渋谷系的な雰囲気も漂わせており、当時の日本人の「オシャレ」が具体的にどのようなものだったのかという民俗学的資料にもなっているかと思います。鷲尾さんのヘタウマな歌謡も実にフレンチポップ的で好ましいのですが、なんといってもオケの完成度の高さ。出色は2曲の山口美央子提供曲「下級生」と「風の絵葉書」ですね。ちなみにこの作品、3年後の90年、「鉄骨飲料」CMでのブレイクを受けて未発表曲を大量に加えたデラックス版(?)として再リリースされています。

 

3.

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アーティスト:井上美樹

タイトル:DOOR

発売年:1991年

レーベル:アポロン

入手場所:BOOKOFF SUPER BAZAAR 八王子みなみ野

購入価格:280円

寸評:医療器メーカー「ニプロ」のCMソング「君の元気は 僕の元気さ ファイト!」で有名(?実際にはこの曲は何バージョンか存在しており、世代によって刷り込まれている歌声が違うという現象があるようです)な、ガールポップシンガー井上美樹による3作目。元気一杯系のガールポップシンガーとは一線を画し、どちらかといえばアダルティーでアンニュイな歌唱を聴かせてくれます。そういうことであれば普通シティ・ポップ路線になりそうなものなのですが、井上さんの場合はフォークロック路線を選択しているのが実に面白い(が、その分2019年的評価軸からは完全にこぼれ落ちるでしょう…)。作曲も基本全て本人が手がけてらっしゃいます。なんというか、この中庸さがクセになる…といえないこともない。

 

4.

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アーティスト:B.J. Cole

タイトル:Transparent Music

発売年:1990年

レーベル:MIDI(オリジナル:HANNIBAL)

入手場所:BOOKOFF橋本津久井街道店

購入価格:500円

寸評:英ロックシーンを代表するペダルスチールギター奏者、B.J.コールによるインスト作品です。クーチーズ在籍時から英ロックにおけるペダルスチール需要を一身にこなしているのでは?と思わせるハードワークぶりで、その名をロック名盤のクレジットに見つけること度々です。もちろん元々はカントリー系のプレイを得意とする人だったわけですが、英ロックの名プロデューサー、ジョー・ボイドが興したHANNIBALレコードからリリースされたこのソロ作では、完全にアンビエントニューエイジ的音楽世界となっています。その内容の至福ぶりを以前から噂にきいていたのですが、そこまでレアでないはずなのに店頭で何故か遭遇することなくこれまできていたのでした。それをこの度ようやくゲットという物語。内容はといえば、噂に違わぬ幽玄ぶりで、この楽器の霊妙な響きを十二分に活かした作品となっています。まさに隠れ名盤といっていいでしょう。印象としては、日本を代表するペダルスチール奏者駒沢裕城氏の名作『Feliz』とかなり近いものを感じますね。しかし、このCDに入っている日本盤ライナーを担当しているミュージックコラムニスト(って何?)の伊藤史朗という方、B.J.コールがだれなのかか知らない、と普通に書いていて職業倫理を疑います。こういうのが普通にまかりとおったというところに、かえって当時の音楽業界の好景気ぶりを思います。

 

5.

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アーティスト:鈴木結女

タイトル:自分の色

発売年:1992年

レーベル:メディア レモラス

入手場所:BOOKOFF橋本津久井街道店

購入価格:280円

寸評:実はこのCD、以前リサイクル店において結構な値段で売られているのをみかけて(結果ただの法外値付けだったようですが…)、その後気になってネットで検索していたところ現在サブスク配信でもリリースされていることを知り、密かに愛聴していたものです。この度晴れて280円で発見という物語。鈴木結女さんは、一般的知名度はそこまで高くないかもしれないのですが、アニメ『NINKU -忍空-』のテーマソングを歌ってらっしゃった方なので、わたしの世代ですと、そちらの方で覚えている方もいるかもしれません(私は覚えていませんでしたが)。これは1stアルバムにあたる作品ですが、全編これ最高のエレクトロ・ファンク〜ブラコン路線の隠れ名盤です。ほぼ全て打ち込みによって作られており、大竹徹夫氏、杉山卓夫らによるバキバキ&ハードメロウなプログラミングが最高ですね。注目すべきは、あのハウスレジェンド寺田創一氏が数曲でプログラミング参加しているということでしょうか。明らかに他曲にくらべ現場感のある音を作っていて流石です。コーラスではアマゾンズや楠瀬誠志郎も参加し、鉄壁。鈴木結女さんの歌唱も、実にみずみずしくそして上手い(英語もラップもめちゃくちゃ上手!)。ちなみに、CDジャーナルでは「紀宮の御学友ってのがスゲェ~」とまったく音楽内容と関係ない部分を一文目からイジられています。

 

6.

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アーティスト:SMAP

タイトル:007〜Gold Singer〜

発売年:1995年

レーベル:ビクター

入手場所:BOOKOFF橋本津久井街道店

購入価格:280円

寸評:「それ持ってなかったの?」案件ですね。Smappiesがバックを務めていたレア・グルーヴ〜アシッド・ジャズ路線期のSMAPについては、これまでも沢山の人が言及しまくっているので、あまり僕がここで付け足すこともありません。これまでもことあるごとに聴かされてきた作品ですが(大学時代などイキった友人から「逆にSMAPやべえよ?」などとよくきかされた)、改めて購入してじっくり聴いてみると、素晴らしいですね。「やっぱり名盤ですね」ということでよいかと思います。

 

7.

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アーティスト:YUTAKA

タイトル:ANOTHER SUN

発売年:1993年

レーベル:MCAビクター (オリジナル:GRP Records)

入手場所:BOOKOFF橋本南口店

購入価格:500円

寸評:またしても横倉裕の登場です。プロデュースやアレンジなどで言及したものも含めると、本「CDさん太郎」における現時点での最多登場者ではないかと思われます。これは以前取り上げた『Brazilasia』(第二回目を参照)から約3年、セルジオ・メンデスのグループで活動するシンガー、ケヴィン・レトーとの仕事やポーリン・ウィルソンのプロデュースなどを経てリリースした通算4作目のアルバム。ファンの間では、これぞYUTAKAの真髄と言われる名作にして、残念ながらソロ名義では今のところ最後の作品となっています(現在では、ボス:セルジオ・メンデスと行動をともにしたり、かつて日本で組んでいたバンドNOVOの再発足プロジェクトなどで活動)。特筆すべきが、セルジオ・メンデスと3曲で共同プロデュースを行っていることでしょう。果たしてこれらの楽曲が本当に至福で…特にM4「スマイル・フォー・ミー」はあのイヴァン・リンスがボーカルで参加するなど、実に豪華…。他曲でもいつもどおり極上のブラジリアン・メロウネスを聴かせてくれますし、琴の闊達なプレイも本当に「マスター」と呼ぶに相応しいオーラを発散しています。最高です。

 

8.

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アーティスト:セルフィッシュ

タイトル:Colors of Love

発売年:1993年

レーベル:PONY CANYON

入手場所:ハードオフ 八王子堀之内店

購入価格:108円

寸評:金澤寿和氏の『Light Mellow和モノSpecial』にも数少ない90年代産アイテムとして登場、更にはハタさんの「シティ・ポップ記録簿」にも登場するなど、ここ数年で急に注目を集めつつある(のか?)男性三人組グループ、セルフィッシュによる第一作。ふにゃふにゃした見た目からはあまり想像できないような、ソリッドなブラコン感を武器とする人達です。楽曲的完成度に照らして一般的評価はセカンドの『ディグ・イット』の方が高いようですが、こちらもなかなかの佳作じゃないでしょうか。一応「バンド」という体を意識しているのか、一般的なJ-AOR諸作よりビートが強力な気がします。特にドラムはメンバーの松本幸弘が担当していることもあり、そのあたりの挟持があるのかもしれません。他演奏陣も、羽田一郎、増崎孝司美久月千晴渡辺直樹、山田秀俊、富樫春生、柿崎陽一郎という手練多数。

 

9.

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アーティスト:刀根麻理子

タイトル:Vois de L'ame

発売年:1990年

レーベル:ワーナー・パイオニア

入手場所:BOOKOFF 八王子堀之内店

購入価格:280円

寸評:この日の一連のディグの翌日、京都メトロで開催された「Yu-Koh α版」へ伺ったのですが(めちゃくちゃ楽しかった…)、lighmellowbuの一員としてDJしていたバルベースさんが本作M1「ソワレの夜 突然に」をかけていて、ブチ上がりました。そんなシンクロニシティ、なかなか無い。本盤は、その山口美央子ペンになる名曲を筆頭に、全編これ高クオリティ。上田知華作のM2における「SPARKLAE」風ラテンフレイバー、山口美央子作のマイナーミディアムM5、テクノポップ感湛えたレイトサマーミディアムM8などが好ましい。その他のマイナーバラードも、そんじょそこらのシンガーのものだと聞くのがツライな―となるところなのですが、なによりこの人は歌がべらぼうに上手いので、飽きずに聴けてしまうというのがありますね。かなり多作な方で、他作品もブックオフに大量の在庫があるはずなので、コツコツ集めていこうと思っています。90年代シティ・ポップにおけるいい意味での中庸を代表するような方かなと…。

 

10.

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アーティスト:長谷川武 & ALBATROSS

タイトル:α波 1/fゆらぎ 四季・夏<Vigor>

発売年:1992年

レーベル:アポロン

入手場所:BOOKOFF 八王子堀之内店

購入価格:280円

寸評:アポロン謹製のα波 1/fゆらぎシリーズ、様々なシュチュエーションごとに沢山の作品がリリースされているのですが、その制作総てをほぼ一手に担っているのが長谷川武氏。北海道出身の氏は、はじめ脚本家をめざし日大芸術学部に入学するものの、かたわらでマンドリンをよくするなど、音楽の道へ徐々に惹かれていき、後にはクラッシックを学びながら環境音楽の世界へ足をふみいれることになったということです。作風としてはそうした遍歴が素直に表出したかなりクラッシック色濃い俗流アンビエントが主になっているのですが、ときたま息を呑むほど美しいアンビエント作をつくったりするので、油断がなりません。ということで、氏の作品は見つける度できるだけ買うことにしているのですが、琴線に触れてくるにはまあ5回に一回といったところで…これは4回の側のやつでした。クラシック名曲のニューエイジアレンジ作品というのはキツものがおおくてなるべく買わないようにしているのですが、まさにそのことを再認識せざるを得ない内容…。しかもヴィヴァルディの『四季』という地雷曲で、二重の苦難です。一応それ以外にもオリジナル曲も入っているのですが、これも実にキツく…。一曲だけ「SUMMER ISLAND」という鈍重な謎フュージョンが入っており、一瞬笑えますが。

 

11.

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アーティスト:久石譲

タイトル:MELODY Blvd.

発売年:1995年

レーベル:パイオニアLDC

入手場所:BOOKOFF 八王子堀之内店

購入価格:500円

寸評:そこへいくと久石譲という人はいつでも素晴らしいクオリティの作品を作っているなあと感心せざるを得ませんね。当たり前ですね。これは氏が映画音楽作家としてブレイクした後にリリースしたリアレンジ・セルフカバー作です。『水の旅人』、『魔女の宅急便』、『この愛の物語』、『ふたり』、『はるか、ノスタルジィ』、『時をかける少女』、『紅の豚』、『ぴあの』、『青春デンデケデケデケ』などから、聴き馴染みあるテーマ曲/挿入曲をチョイスし英語詞を付けた上、トミー・ファンダーバークやウォーレン・ウェイブといった外国人歌手に歌わせる、といった企画です。バッキングにもLAのセッションミュージシャンを一同に集めています。存在は知っていたのですが、氏のディスコグラフィーの中でも手に入りづらい部類(売れなかったのか?)ということもあり、この日ようやくゲット。内容は、まったく盤石極まりない高クオリティなAORで、全編安心印の久石ワーク。出色はミディアム〜アップの「あたなになら」「木洩れ陽の路地」、「追憶のX.T.C.」あたりでしょうか。バラードになると例の過剰な叙情性が鼻についてくるところもあります。

 

12.

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アーティスト:ELLIS

タイトル:Fragile

発売年:1992年

レーベル:ポリスター

入手場所:BOOKOFF 八王子堀之内店

購入価格:280円

寸評:元四人囃子〜プリズムの森園勝敏プロデュースという、つい身を乗り出さざるを得ないプロダクションによって89年にデビューした男女ユニット「エリ」。森園勝敏といえば、上記バンドでのワークスはもちろん、ソロ独立後の諸作に至高のフュージョン名作が多く、中でも78年の『バッドアニマ』はオールタイムフェイバリットであり…と森園氏の話ばかりになってしまいました、すみません。elliの歌、近藤洋史のプログラミングを軸とする彼らのサウンド、若干捉え方に迷う折衷的なものなのですが、それこそ森園氏のセンスがこのあたりに反映されている気もしますね。ボーカルはやや頼りない感じ(だからこそ良いという見方も出来る)なのですが、サウンドクオリティは一級品という対比にも妙味があります。曲調はさすが洒脱なものが多く、シティ・ポップに分類して良いのではないかと思います。彼らは6枚のオリジナアルバムを発表後、活動休止。二人は近年も積極的活動を行っており、特にボーカルのelliは、Elli & Petz Gelatoとして、また、鈴木雄大とのユニットZEBRA ONEとしても活躍されています。

 

次回へ続く…。

CDさん太郎 VOL.13 2019/4/18購入盤

こんにちは。本記事はCD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第13回目になります。今回は2019年4月18日東京・吉祥寺で購入したCDを計10枚紹介します。

この日、HMVコピス吉祥寺店にてジャンクCD放出セールがあり、5枚まとめ買いで100円という暴力的価格で売り出されていたのでした。そのため、ここで紹介する10枚の購入には200円しかかかっていません。そのようなものに結構な時間をかけてレビュー執筆をするという行為、とても上質な暮らしと言えるでしょう。

このゴールデンウィーク中も沢山CDを買っているのですが、そろそろ本ブログ紹介ペースが周回遅れな感じになってきているので、ヤバイ。食事や睡眠時間も削って頑張っていきます。よろしくお願い致します。

 

唐突に告知です。

5/11、東京・宮の坂の素敵なお店、「バレアリック飲食店」にてDjをさせていただくことになりました。

素敵な皆様とともに、最近の釣果を交えプレイさせていただきます。

是非お越しください。

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本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。 

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:Leslie Smith

タイトル:“Les” is More

発売年:1992年

レーベル:ポリドール(オリジナル:MORRISON ENTERTAINMENT)

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:米イーストコーストのファンク〜ライトメロウ名アクト、クラッキンの元ボーカリストであるレスリー・スミスが92年にリリースしたブラックAOR好作です。レスリー・スミスといえば82年のデビュー作『ハートエイク』がAOR名盤として著名です。そのジェントル〜メロウな内容は、ソウル系のファンよりむしろAORファンに支持されているというのが面白く、同時代に活躍したスティーブ・ウッズなどにも通じる魅力かと思います。このセカンド作は全てAOR名曲のカバー曲となっており、ブレンダ・ラッセル「イッツ・サムシング」、ルパート・ホルムズ「レス・イズ・モア」、クリス・レア「フール」、ジノ・ヴァネリ「アイ・ジャスト・ウォナ・ストップ」、ネッド・ドヒニー「ア・ラヴ・オブ・ユア・オウン」、果てはボズ・スキャッグス「ウィー・アー・オール・アローン」までを歌っています。その全てのアレンジがおしなべて素晴らしく、レスリーのスムーズな歌唱を暖かに包み込んでいます。時代を反映したエレクトロ・ビートもじつに奥ゆかしく配置され、あくまでAOR的溌剌とスムースネスを妨げることをしません。今作、森口哲也氏という米在住の日本人ミュージシャンがプロデュースを務めており、氏のセンスがこのバランス感を生んでいるようです。白眉はネッド・ドヒニー「ア・ラヴ・オブ・ユア・オウン」と、マーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイン・オン」の実直なカバーでしょうか。後期AORの名盤と言っていいでしょう。

 

2.

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アーティスト:CHAKA KHAN

タイトル:NAUGHTY

発売年:1991年(オリジナル:1980年)

レーベル:ワーナー

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:こういう有名アーティスト作品というのは、最近ではあまりCDで買うことが少ないのですが(アナログで買うかサブスクで聞くことが多いので)、この値段なのでそういうこと関係なくつい買ってしまいました。ご存知の通りチャカ・カーンは今も現役バリバリ。スウィッチと組んで12年ぶりにリリースした今年のアルバムがめちゃめちゃカッコよく、ルーファス時代の作品から聴き直していた所、この未所持盤を超安価で発見。前作のインパクトと次作のヒットに挟まれて若干印象の薄いところのあるアルバムなのですが(ジャケも地味)、その内容は当たり前のように超一級品。アシュフォード&シンプソン作のM1「Cloud」からしてディスコ〜ガラージの一番幸せな時代を思わせる充実の音作り。おそらく当時世界一のテクニックを誇っていたボーカルは、ますます溌剌。余裕すら感じさせます。アリフ・マーディンのプロデュースも過不足なく、実に職人的。名盤です。

 

3.

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アーティスト:NDUGU & THE CHOCOLATE JAM COMPANY

タイトル:DO I MAKE YOU FEEL BETTER?

発売年:2001年(オリジナル:1980年)

レーベル:エピックソニー (オリジナル:EPIC)

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:これはいくらなんでも安すぎます!ンドゥグことレオン・チャンスラーは60年代からジャズ・シーンで活動を開始したドラマーで、一時期はハービー・ハンコックのMWANDISHやエレクトリック・マイルスのバンドにも参加した才人。70年代以降はクロスオーバー色を強め、サンタナジョージ・デュークなどと活動を共にし、更にソウル色を強めボーカルを迎え結成したのがこのチョコレート・ジャム・カンパニーです。ファーストにあたる前作ではアース・ウィンド&ファイアーのアル・マッケイが全面的に参加したこともあり、かなりアース風の内容だったのですが、今作はよりディスコ色を全面に打ち出したものになっています。内容は一級品です。冒頭の「SHADOW DANSING」などのアップも秀逸ですが、マッドリブネタのミディアム「TAKE SOME TIME」などシブいメロウネスを聴かせる曲がカッコいい。このキラキラしたストリングス・アレンジ、ヴォーカル・アンサンブルの艶、リズム隊の粘り、至福ですね。このCDは日本のソニーが2000年代初頭にやっていた「洋楽秘宝館」という再発ラインの一連として出たものなのですが、マスタリングが非常に素晴らしいのです。リマスター技術の黎明期にあたるこの時代、志の高い仕事が沢山ある印象です。

 

4.

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アーティスト:GREG MATHIESON PROJECT

タイトル:BAKED POTETO SUPER LIVE!

発売年:1986年(オリジナル:1982年)

レーベル:CBSソニー

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:ラリー・カールトンとの活動で知られるキーボード奏者グレッグ・マティソンが、スティーブ・ルカサー(ギター)とジェフ・ポーカロ(ドラム)というTOTOの二人、そして盟友のロバート・ポップウェル(ベース)と組んだセッション・グループによる唯一作にしてライブ盤。TOTOからの二人にしてもそうなのですが、個人的に、こうした腕達者なミュージシャンの人達の魅力はむしろウェルメイドなアレンジの中でこそ味わい深い、という考え方があり…いわゆるバリバリ弾きまくりセッション的なものはどうしても苦手なのでした…。特にロッキッシュになった時のルカサーのプレイは昔からずっと苦手ですね…。じゃあなんで買ったんだ?というと正直言ってまとめ買いの数合わせです。すみませんでした。今色々なところでフュージョンの揺り戻しが興っていますが、これは「そういうのじゃない」側のフュージョンの代表的な音を聴かせてくれます。ライナーノーツで、松原正樹土方隆行野呂一生という日本のトップギタリスト達が本作を聴いた印象を寄せているんですが、ルカサーのプレイに対してもどこか冷めており、かつアレンジ、ミックスなどについても結構手厳しいことを言っていて面白いです。やっぱりこの人達は信頼できる、と思いました。

 

5.

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アーティスト:Flank Gambale

タイトル:a present for the future

発売年:1987年

レーベル:ジムコ(オリジナル:LEGATO)

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:すみません、数合わせです。チック・コリア・エレクトリック・バンドの一員でもあったギタリスト、フランク・ギャンバレが87年にリリースしたセカンド作。一回のストロークで複数弦に渡って単音フレーズを弾く(ストロークの間に左手のパッセージを行っているということ?)という、フュージョン界に衝撃を与えた「スピード・プレイ」なる奏法で有名な氏ですが、ここではそのテクを余すところなく発揮しております。ということは、上段のグレッグ・マティスン・バンドと同じく、私の好みではありません…。ただ、曲がロッキッシュではなくマイルドなものが多く、その分まあ聴けるかなあ…という印象。が、アレンジが凡庸で如何ともし難いですね(ジャケからニューエイジ的テイストを期待したのですが、そういった音楽要素は残念ながらありません)。本来のフュージョンアイデンティティを考えると本末転倒な言い方なのですが、プレイ志向に走っているフュージョンは今の感覚だとやはりキッツイですね。アレンジや編集、音像面でのアイデアに閃きのあるものでないとリスニング的にツライです。

 

6.

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アーティスト:Dave Grusin

タイトル:MOUNTAIN DANCE

発売年:1998年(オリジナル:1980年)

レーベル:          JVC(オリジナル:GRP)

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:この辺りで「良いフュージョン」を取り上げましょう。デイブ・グルーシンフュージョン界を代表するキーボード奏者、作曲家、プロデューサー。これは多作な彼の代表作と目される一枚で、1980年にリリースされたアルバムです。タイトル曲は日本でもヒットした洒脱な恋愛映画『恋におちて』(ウール・グロスバード監督、ロバート・デ・ニーロメリル・ストリープ主演)のテーマ・ソングとなっており、50代以上の方ならうっすらメロディーをご存知でないかなと思います。上述してきたテクニック志向フュージョンの真逆に位置する作曲とアレンジメント重視の超一級品で、やっぱり私はこちらの方が好きですね…。もちろん、デイブ自身の鍵盤含め参加メンバー全員テクニック的にもものすごく巧いのですが(ハーヴィー・メイソンマーカス・ミラーなどが参加)。今の感覚的にはデイブとエドワード・ウォルシュのキーボード〜シンセサイザーのトーンに惹かれます。絶妙に暖かなシンセサイザーサウンドのセンスは、同時期のフュージョンの中でも突出したものに思えます。完璧な構築美という点からも、スティーリー・ダンなどが好きな人にも聴かず嫌いせずにチャレンジしてほしいなと思ったりします。

 

7.

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アーティスト:V.A.

タイトル:HAPPY ANNIVERSARY, Charlie Brown!

発売年:1989年

レーベル:ビクター(オリジナル:GRP)

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:漫画『Peanuts』の音楽といえば、今も昔もTVシリーズにおけるヴィンス・ガラルディの名が挙がることでしょう。そのオリジナル音楽の素晴らしさは今更ここで強調する必要のないほどですが、それを大物アーティストにカバーさせ、作品誕生40周年を記念する盤として制作されたのが本CDです。上段のデイブ・グルーシン主宰のGRP所属アーティストが中心となり、同レーベルから出されたこれは、さながらフュージョンチャーリー・ブラウン・トリビュート。内容はじつに手堅く、ヴィンス楽曲の魅力へリスペクトを捧げ真っ向からカバーしている印象です。デヴィッド・ベネイの「ライナス&ルーシー」、リー・リトナーの「レッド・バロン」、パティ・オースティンの「クリスマス・タイム・イズ・ヒア」あたりが特に好ましく聴けます。が、そういうある意味中庸な音楽内容にましてこのCDが魅力的なのは、漫画とイラストがふんだんに用いられたブックレットと言えます。アニバーサリーということもあってかルーシーも妙にしとやかで、いつもの皮肉も控えめです。

 

8.

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アーティスト:MARLENE

タイトル:LOOKING FOR LOVE

発売年:1984

レーベル:CBSソニー

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:80年代初頭から日本で活動するフィリピン人ジャズ歌手マリーンによる84年リリースの6thアルバムです。この人は異様に多作で、中古店頭でみかけるたび「コレって持っていたっけ?持っていなかったかったけ?」となるのですが、このジャケは以前から妙に印象に残っていたのでした。ラリー・カールトンやジェイ・クルスカ、ネイザン・イーストなどを迎えたLA録音で、相当にクオリティの高いプロダクションです。マリーンのボーカルも完璧にこなれた英語なので、もはや和的な要素はほぼありません(たまにマイナー調曲に顔を覗かせる程度)。ということで、改めてAOR作品として聴いてみると、その素晴らしさに感じ入る次第です。LAらしいロック・テイストも随所で聴かれますが、今の感覚的にナイスなのはジョイフル・ポップなM6「ニードル・イン・ア・ヘイスタック」、ロバート・クラフトのカバーM7「アイ・ワンダー・ホワット・ユー・アー・ライク」、うっすらバレアリックなブギーM8「ア・リトル・T.L.C.」あたりかなと思います。

 

9.

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アーティスト:杉真理

タイトル:STARGAZER

発売年:1983年

レーベル:CBSソニー

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:珍しい「LPでも持っているけどCDも買ってしまった」盤です。杉真理の初期キャリアを代表する、そして80年代シティ・ポップ・シーンも代表する名盤なので、改めてここで僕が内容について詳細することも無いのですが、当然のごとく非常に素晴らしいです。以前杉さんにインタビューした際、僕は田舎者なのでシティ・ポップといわれると不思議な感覚があって、と笑いながら謙遜されていましたが、その発言を僕なりに解釈するなら、杉さんの志向はあくまでオールディーズ〜マージービートで、いわゆる今でいう都会的「ライトメロウ」感覚というのをことさら意識していたわけでないということになのかもしれません。実際ここで聴かれる音楽は、アレンジこそシティ・ポップ感覚にあふれていますが、現在に続く曲作りの妙の骨格はやはり60年代ロック〜ポップスとしてのそれです。もしかしたら若い世代にはその辺りの勘所が掴みづらいかもしれないのですが、一度魅力に開眼すると、膨大なディスコグラフィー全てが愛おしく思えてくるのでした(私も未聴作品を順次クエストしようと思っているところです)。ちなみにこのCD、83年発売ということでCD黎明期のものなのですが、マスタリングレベルの極端な小ささに時代を感じます(そもそもマスタリングという概念自体もこの頃産まれたものなので…)。かといって「悪い音」というわけではなく、コンプ感希薄な透明性のある音で、これはこれで好ましいのでした。上段のマーリンも84年のCDなので、同じようなマスタリング傾向です。

 

10.

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アーティスト:YOUNG SWALLOWS

タイトル:TO THE TOP VICTORY ROAD

発売年:1993年

レーベル:東芝EMI

入手場所:HMVコピス吉祥寺店

購入価格:20円

寸評:めちゃくちゃトレンディーなジャケットを見て、「ヤングスワローズ」なんてライト・メロウ・グループいるのか?なんて思ったんですが、その実、ヤクルトスワローズの選手たち。よく見たら確かに、私が小学生だった頃のスタメンがジャケでふにゃふにゃ微笑んでいます。制作陣に佐藤準鈴木博文白井良明小室哲哉サエキけんぞうなどの名前を発見し、音楽的にマジの雰囲気を感じたので購入しました。果たして…。佐藤準作のインストM1はいきなり暑苦しいアメリカン・ハード・ロックの雰囲気で聴き進める意欲を著しく挫くのですが、橋上、飯田、加藤、西村、高津、内藤、小阪の歌うM2「負けず嫌いなLOVE SONG」はギリギリでシティ・ポップに分類可能な烏合の衆系合唱曲でした。M3は古田による中庸なミディアム、小室哲哉曲M4はかなり保守的なミディアムと、なんとも言い難いぬるい世界が続いていきます。そんな中、秦による歌唱の鈴木慶一詞、白井良明作曲「愛を数えよう」は実にシブいオリエンタル・フォーク・ロックで好ましい。なんでこのCDにこんな曲が!? つづく広沢はJ-WALKの「何も言えなくて…夏」を55点の歌唱力で歌い上げます。M8は髙野による凡庸な歌謡ロック。全員によるM9はこれまでの曲のメドレーとなっています(しつこいなあ…)。という感じで(当たり前ですが)お遊びの範疇を出ないノベルティ作品ですが、時代の記録としては貴重かなと…。多分再び聴くことはないので、スワローズ・ファンの方へ謹呈します。

 

次回へ続く…。

CDさん太郎 VOL.12 2019/4/8〜4/14購入盤

こんにちは。本記事はCD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第12回目になります。今回は2019年4月8日に立川で、日に下北沢、9日に御茶ノ水、11日に早稲田、14日に吉祥寺で購入したCDを計12枚紹介します。

唐突に告知です。先日収録があったのですが、4/22(月)の22:00〜23:00に無料ラジオステーション「Backstage Cafe」にて配信されるwebラジオ番組『ラジナタ』にゲストとして出演させていただきます。パーソナリティはカクバリズムの代表で敬愛する先輩、角張渉さんです。かれこれ10年近くのお付き合いになる角張さんですが、こういう形でお話するのはとても新鮮でした。本ブログの内容に通じる話をしつつ、フェイバリット楽曲を紹介させていただきました。

詳細、ご視聴は以下リンクよりどうぞ。

https://live.natalie.mu/radinata/

 

本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:Pauline Wilson

タイトル:Intuition

発売年:1992年

レーベル:PONY CANYON(オリジナル:Noteworthy Records )

入手場所:BOOKOFF SUPER BAZAAR 立川駅北口店

購入価格:280円

寸評:ポーリン・ウィルソンはハワイ生まれのシンガーで、フュージョンバンド、シーウィンドのボーカリストとして70年代半ばから活躍するベテランです。シーウィンドにはそこまで興味を持てない私なのですが(いや、かつてそうだっただけで今は違うもしれないので、今度100円でLPを見つけたら買おうと思っています)、何故本作を購入したかというと、米在住の日本人アーティスト横倉裕(このブログに良く出てきますね〜)がプロデュースを担当しているからです。この時期の彼は、本「CDさん太郎」第二回目にも取り上げたGRP盤リリースや他プロデュースワークで乗りに乗っていた時期。バックにはシーウィンドの元メンバーや横倉氏界隈のブラジル系ミュージシャンが大挙参加しており、全編非常にハイクオリティなオケ。ポーリンの歌唱も20年前とまったく変わらない、スムースかつ伸びやかなもの。ジャジー以上、ソウルフルの手前といった塩梅で、実に心地よい。取り上げられる曲も、シーウィンド時代の楽曲から横倉曲まで非常に充実しています。90年代AORの名作と断言していいかと思います。ネットにあたってみたら、2017年にハタさんが「light mellow記録簿」で取り上げており、流石すぎると思いました。こういうのもいつか再発される日がくるんでしょうか。マケプレでも微弱にプレミアが付いているようですね。

 

2.

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アーティスト:佐久間正英

タイトル:SANE DREAM 正気の夢

発売年:1991年

レーベル:東芝EMI

入手場所:珍屋 立川2号店

購入価格:400円

寸評:佐久間正英氏といえば四人囃子からプラスティックスへと渡り歩き、遠藤賢司からBOOWYGLAYまで幅広く手がける敏腕プロデューサーとしても活躍した天才ですが、80年代以降数々の劇伴音楽を制作し(特に、dip in the poolを迎えての崔洋一監督映画『黒いドレスの女』のサントラは極上です…)、環境音楽的な作品も多く残してきた人です(2014年逝去されました。安らかに…)。この91年作は、そういった志向に加え元来のブリティッシュ・ロック〜プログレな要素を足したもので、何ともこの人らしい作風の良作です。以前本「CDさん太郎」でも日本移住後の作品を取り上げたexモット・ザ・フープルモーガン・フィッシャーも鍵盤で参加し、アンビエント的要素も多分に含んでいます。全体を通して、そうしたアンビエント調からニューウェイブ風、モダンポップ風など様々なタイプの楽曲が収められていますが、そのどれもに繊細なアレンジメントと音響処理が施されており、同時期のデヴィッド・バーン作品も彷彿したりもします。キングクリムゾンの名曲「I Talk to the Wind」のしとしととしたカバーも素晴らしい。ポップアートとアングラを無理やり接合したような分裂的なアートワークも実に良く、一筋縄ではいかない音楽内容をよく現していると感じます。

 

3.

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アーティスト:MARIAH

タイトル:MARGINAL LOVE

発売年:1991年(オリジナル:1981年)

レーベル:日本コロムビア (オリジナル B&M)

入手場所:珍屋 立川2号店

購入価格:200円

寸評:2016年に米レーベルPalto Flatsから83年のラスト作『うたかたの日々』がリイシュー、それがピッチフォークのBEST NEW RIISUEに選出されたことで世界的に再評価が盛り上がっているジャパニーズ・プログレッシブフュージョンバンド、マライア。メンバーラインナップは、清水靖晃(Sax)、笹路正徳(Key)、土方隆行(Gtr)、山木秀夫(Drs)、渡辺モリオ(Bass)、村川ジミー聡(Vo)というそうそうたる面々。初期は超絶フュージョン集団というイメージでしたが(ゆえに中古市場でもあまり人気はない)、この3rdくらいになってくると、プログレッシブというか、もはやそこを超えてポストパンクな持ち味が炸裂しており、同時代の世界的基準で見てもかなり先鋭的な音楽だと思います。これまでこのバンドはフュージョン文化圏のみで論じられてきたように思いますが、むしろポストパンク的な文脈から評価されるべき怪作だと思います(だから、ゲスト参加のスティーブ・ルカサーはかえって浮いてしまっています)。同時期の東京ロッカーズの一群、関西ポストパンク勢、あるいはPILやマーク・スチュワート、DNAやコントーションズなどとも共通するテイストを感じるシリアスなものです。しかしそうした路線に行き詰まりを感じたのか、次作の『うたかたの日々』ではよりポップでエレクトロニックな路線へ変遷していくのでした。ちなみにこの時期、マライアの面々は初期ビーイング制作の諸作によく駆り出されており、秋本奈緒美初期作を始めとして強烈な怪作(快作)が作られることになったのでした。

 

4.

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アーティスト:Paris blue

タイトル:a groovy kind of Love 恋はごきげん

発売年:1993年

レーベル:BMGビクター

入手場所:珍屋 立川1号店

購入価格:380円

寸評:今はその殆どが歴史に埋もれてしまい、人々の記憶からも消し去られてしまった感のある「疑似渋谷系」のアーティスト達。フレンチテイストを織り交ぜたシャレたアートワークに惹かれて買ってみると、「これって渋谷系?」ということが結構あるのです。元々J-AORシティ・ポップ的なものが席巻していた芸能音楽界へのカウンターが渋谷系であったわけで、ポストパンク由来の本来の意味におけるネオアコ精神が漂白されてしまった後発組(疑似渋谷系)を聴くと、なんだかボヤボヤしたポップスだナア…となってしまいがちなのでした。このParis Blueは、最初から意識的に「渋谷系」として「打ち出され」れたユニットで、今から振り返ると逆説的にそうした渋谷系シーンの空洞化を象徴しているような存在かなと思います。全てオリジナル曲なのですが、そもそもその曲にいわゆる渋谷系感がほとんど無いのでした。アレンジ面で微弱にそういう雰囲気も感じますが(それがまた、アシッドジャズ的ビートを安易に取り入れたり、ヴィブラフォンを慣用句的にを入れてみたりと、実に類型的な感じ)、旧世代的なボーカルスタイル含め、明らかに「名ばかり渋谷系」です。が、本レビューは、「真の渋谷系」を称揚することが目的ではありません。むしろその逆を言いたいのです。今作、むしろ旧来のニューミュージックの系譜に置いて聴いてみると、割と好ましいシティポップ・アルバムなのではないかと思います(実際に参加ミュージシャンも旧世代の人達が参加しています)。特にM5あたりはかなり良い(この曲は比較的渋谷系濃度も高くオールドウェーブと渋谷系の奇形的なマリアージュという感じです)。嗚呼、彼らはさして話題になることなく失速し解散してしまいます。打ち出し方の悲劇ですね…。疑似渋谷系の隠れ良作はけっこう存在しているはずなので鋭意掘っていきたいところです。

 

5.

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アーティスト:佐藤博

タイトル:ALL OF ME

発売年:1995年

レーベル:東芝EMI

入手場所:ディスクユニオン 立川店

購入価格:522円

寸評:元ハックルバックティン・パン・アレーのライトメロウ神・佐藤博による95年作。この人のすごいところは、いつの時代でも必ずカッコいいというところで、その天才っぷりに今再び注目が集まるのにも強く納得する次第です。かつては敬遠していた90年代以降作も、今や見かける度に買ってしまうのでした。80年代以降のソロ作では打ち込みサウンドと自身のジェントルなボーカルを巧く融合させてきた彼の技が、この時代になると円熟の粋に達し、テクノロジー有機的活用と血肉化という点で他の追随を許さないレベルに至っている感があります。M1、いきなりミニマルテクノ風の楽曲で度肝を抜かれますが、これも「やってみました」風じゃなく、ちゃんとかっこよく形になっているのがスゴイ。M2以降は怒涛のAOR〜ライトメロウチューンのオンパレードで、いつもながらミディアムテンポの楽曲が光っています。特に、吉田美奈子が参加したM4、ゴンザレス三上の参加した快適音楽M5、盟友・細野晴臣イッシュなトロピカルグルーヴチューンM6、洒脱極まるシティポップサンバM10など、全編にわたり超一流です。

 

6.

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アーティスト:角松敏生

タイトル: SEA IS A LADY

発売年:1987年

レーベル:          Air Records

入手場所:ディスクユニオン 立川店

購入価格:380円

寸評:超一流の方が続きます。角松敏生による87年制作のインストアルバムです。2017年には完全再現版『SEA IS A LADY 2017』がリリースされ当時のファンの間でも話題になっていましたね。この87年のオリジナルは、当時オリコン4位を記録するというインストアルバムとしては規格外のヒットを飛ばした作品です。実際聴いてみると、流石角松氏、いつもながら少しのスキもないアレンジを伴った大一級の作品となっています。そして、当たり前ですがなによりギターがめちゃくちゃウンまい。実に胸のすく弾きっぷりで、ギターソロ不遇の2019年の空気感がアホらしくなってきますね。当たり前ですが、ギターは「弾くもの」なのでした。一方でフュージョンプロパーの人やバンドにありがちなスポーティー過ぎる雰囲気はほとんどなく、あくまでポップスを作ろうという意思に貫かれているのが益々いいです。夏、ドライブしながら聴いたらさぞ最高だろうし、聴きましょう。

 

7.

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アーティスト:オノ・セイゲン

タイトル:COMME Des Garcons vol.1

発売年:1989年(オリジナル:1988年)

レーベル:徳間ジャパン(オリジナル:Venture)

入手場所:ディスクユニオン 立川店

購入価格:280円

寸評:コム・デ・ギャルソンのデザイナー川久保玲嘱託による、たオノ・セイゲン制作のファッションショー用音楽第一集です。実は本CDかつて所持していたのですが一度売り払ってしまっており、今回、このところの自分の中での背景音楽への関心の高まりから再度購入しました。実際にCDとして発売されたのは89年ですが、録音は87年に行われています。注目すべきがその豪華な演奏メンバーです。アート・リンゼイジョン・ゾーンジョン・ルーリービル・フリゼールなどが中心となり、先鋭的な演奏を聴かせます。そこにオノ氏の音響処理がほどこされ、実に理知的なバックグラウンドミュージックが完成されました。そのまま一本の映画のスコアに転用できそうなほどのバラエティで、アンビエント調、ミニマル調、各種民族音楽調、アヴァンプログレ調など、どれも自立的な音楽としても素晴らしい。今ならDJ使いもバリバリできそうです。

 

8.

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アーティスト:Finis Africae

タイトル:amazonia

発売年:2016年(オリジナル:1990)

レーベル:EM Records(オリジナル:Música Sin-Fin)

入手場所:ディスクユニオン 立川店

購入価格:1,152円

寸評:以前本ブログにも同じEM Recordsからもベスト盤が登場した、スペインのニューウェイブ〜バレアリックユニット、フィニス・アフリカエによる90年作です。タイトル通りアマゾン紀行を題材にしたコンセプトアルバムで、南米湿地帯のディープトロピカルな風景を思わせる(アンリ・ルソーのジャングル画のような)有機的なエレクトロニック音楽です。エレクトロニックといっても生楽器も縦横に使用され、テクノほどマシーン的でなく、より有機的なグルーヴで貫かれている感じです。このあたりがまさしく「バレアリック」。SEの使用も非常に洗練れており、生きものたちの鳴き声を交えたジャングル喧騒音も実に品よく取り入れられています。トラック別ではメディテーショナルなシンセとヴィブラフォントーキングドラムを模した電子音が素晴らしいM2、ドープ極まりない熱帯ドローンアンビエントM5、カリンバの反復フレーズと緊張感あるシンセフレーズが絡みつくミニマルハウス調のM6、ツィター舞うニューエイジの色強いM7が素晴らしい…というか…もう…全部が最高です。上述のベスト盤を取り上げたときにも言いましたが、今個人的に一番カッコいいと思える音楽です。

 

9.

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アーティスト:上野耕路

タイトル:『GADGET Trips』オリジナル・サウンドトラック レゾナンス オブ ガジェット 〜疑似交響曲的断章及びノイズ・モンタージュカラ

発売年:1995年

レーベル:SYNERGY, Inc.

入手場所:ディスクユニオン 御茶ノ水

購入価格:480円

寸評:ex.ゲルニカ上野耕路が、マルチメディアクリエイター(というのが既に懐かしい言い方ですが)の庄野晴彦によるLD/VHS作品『GADGET Trips』のために書き下ろしたスコアを収めた作品です。GADGETシリーズはそれまでCD-ROMなどでもリリースされていたということで、90年代CGオタクの間では今でも伝説的な作品とされているという由。が、今のネット社会においてもそれらを動画配信サイトで閲覧することは難しい、という、まるでこの「CDさん太郎」でサルベージしているコンテンツと同じような状況が起こっているのでした。音楽内容的には、上野氏の名盤『Music for Silent Movies』へ通じるような疑似現代音楽という感じで、タイトルがうまくその内容を現しています。ブックレットに寄せられたテキスト含め猛烈なニューアカデミズム臭を発散しており(95年というリリース年を考えるとちょっと遅い)、個人的趣向で言うとこのあたりのチージースノビズムには鼻白んでしまう感じもあるのですが、時代の徒花ならではの美しさがあるのも確かなことであるように思われます。「難しそうなこと」がカッコ良かった時代に思いを馳せて…。

 

11.

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アーティスト:Adi

タイトル:Adi

発売年:1992年

レーベル:ビクター

入手場所:ブックオフ 早稲田駅前店

購入価格:280円

寸評:「上田知華とKARYOBIN」でバイオリンを担当し、その後飛鳥スリリングスを率いていた金子飛鳥と、ex.美狂乱のドラマー佐藤正治を中心として結成されたプログレポップバンド、Adi。このセカンドでは佐藤が脱退し、金子、ex.Shi-SHONENの渡辺等、オルケスタ・デ・ラ・ルス塩谷哲、ex.プラチナのTECHIEというメンバー構成になっています。更にゲストとして仙波清彦(!)を迎えて制作された本作、忘れられた日本プログレポップの名作として面白く聞ける内容なのではないかなと思います。ファジーなアートワークからしていかにもこの時代らしい美学を感じるのですが、聴き心地も決して硬質なプログレ感を全面に押し出してているわけではなく、むしろ柔和な印象を抱かせます。が、やはりよく聞くと超絶的なアレンジセンスとテクニックに支えられていることが感得されます。実に今評価に迷う内容かなと思うのですが、少なくとも、かつて日本の「プログレッシブ」というものがポップスに接近して芳しい結果をものにした時代がある、というドキュメントとして評価されるべきものに感じます。チャクラ〜小川美潮ソロ作のファンへもアッピールするような内容だと思います。

 

12.

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アーティスト:高橋悠治

タイトル:J.S.バッハ高橋悠治・編:フーガの[電子]技法

発売年:2006年(オリジナル:1975年)

レーベル:日本コロムビア

入手場所:ディスクユニオン 吉祥寺店

購入価格:580円

寸評:日本を代表するピアニスト/現代音楽作曲家の高橋悠治は、シンセサイザーも能くする音楽家で色々な作品を残しているのですが、こういったものを制作しているのは寡聞にして知りませんでした。これはバッハの「フーガの技法」(BWV1080)からの7曲をMoog-Type55、MS-Synthi 2を用いて弾いた作品です。シンセサイザーinクラシック、しかもバッハというと何より先にウォルター・カルロスの名作『スウィッチド・オン・バッハ』(69年作)が思い浮かぶわけですが、それが娯楽音楽寄りだったとすると、この作品はよりストリクトな意識に下支えされたアカデミック寄りの作品集という感があります。しかしながら、このアナログシンセサイザーによる電子音像は『スウィッチド〜』に通じるトッポい印象を聴くものに与えずにはおらず、どうしてもキッチュな味わいが滲み出るのでした。この時代特有のエフェクトボード無経由のノンリバーブな音像は、今の感覚でいうと「ゲーム音楽っぽい」ということになるのかと思います。しかしながら、録音当時はもちろんそういった「初期ゲーム音楽っぽさ」というのは未知のものであり、これを虚心に(クラシック音楽として)評価するにはそうした部分を捨象せねばならないでしょう。しかしながら、現代のリスナーからするとその「ゲーム音楽っぽさ」こそがチャームとして聴こえてしまうというのは避けられないことでもあり、むしろそこを美点として味わうのが却って正しい聴取感覚なのではないかなとすら考えます。電子音楽というのはそも、かように時代の音像=テクスチャーにそのリスニング意識が左右されるものなのでしょう。そのことを含み込むならば、そういった聴取意識の変容すらも「聞く楽しみ」の中に包摂することが、こうした初期シンセサイザー音楽を味わう要諦なのかもしれないと思うのでした。

 

次回へ続く…。

CDさん太郎 VOL.11 2019/3/30〜4/6購入盤

こんばんは。本記事はCD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第11回目になります。今回は2019年3月30日に御茶ノ水、31日に下北沢、4/2に吉祥寺、4/6日に神保町で購入したCD10枚、そして知人から借りたCD2枚を紹介します。相変わらず未リスCDが積み上がりつつあるので、ペースを上げていきたいところです。

唐突に告知です。
4/17(木)の20:00〜22:00まで、コメカさんパンスさんによるテキストユニットTVODと、音楽ライターの高岡洋詞さんがホストを務めるweb番組「TVODの焼け跡テレビ #3」にゲスト出演します。
テーマはずばり「CD」。本ブログ内容とも関連する話をさせていただくことになるかと思いますので、ご興味ある方は是非ご覧ください。

ご視聴は以下リンクより。

http://ttps://www.lotuslotus.tv/video/843


本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:ヘンリー川原
タイトル:臨死体験 / NEAR DEATH
発売年:1992年
レーベル:グリーンエナジー
入手場所:ディスクユニオン 御茶ノ水駅前店
購入価格:480円
寸評:一口に俗流アンビエントと言っても、その中には様々な傍系ジャンルがあるのですが、オカルティズム的色彩の濃いものも一時期大量に発売されていました。一連のオウム事件がピークを迎える95年の以前は、こうした商品が巷に溢れていたのでした。私個人としても、小学生時分スーパーでそういう怪しげなCDが売られていた様子をおぼろげながらに覚えています。このグリーンエナジーレーベルのヘンリー川原氏による「サイコジェネシスシリーズ」はその中でも最も代表的な存在と言えるかもしれません。そもそもヘンリー川原氏って何者なのか?という話なのですが、ネットを調べてみても確定的な情報に乏しく、推測の枠をこえませんが、オカルト実践家・研究家、スピリチュアリスト、ライターなどとして当時活動していた方のようです。どうやら氏はその後カンボジアに移住、レストラン経営などを行い成功を収められたようですが、現在は亡くなられているようです。トリックスター感。本作は、臨死体験中の人間の脳波をもとに制作したCDということで、集中して聴くとある種の解脱効果がある(らしい)というもの。音楽的にはかなり地味なシンセサイザードローンで、低音フレーズがウオンウオンずっと鳴っているのがやや特徴的か。オカルティックな雰囲気はそこまで強くなく、むしろ全般的にリラクゼーション向けの穏やかな音楽です。ですが、M1の1:20過ぎ、マスタリング〜プレス工程上の事故なのではないかと思うくらいの大音量の「キー!!!」というけたたましいノイズが一瞬入っており、かなり心臓に悪いです。ジャケットが強烈にタンジェリンドリームの『フェードラ』っぽいのですが、音楽的にもおそらく影響を受けている感があります。色々な意味で時代の徒花的俗流アンビエント

 

2.

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アーティスト:鈴木雄大
タイトル:STREET OF ECHOS
発売年:1987年
レーベル:ファンハウス
入手場所:ディスクユニオン 御茶ノ水駅前店
購入価格:100円
寸評:かつて東芝EMI在籍時代、井上鑑稲垣潤一安部恭弘と並んで「ニューウェーブ四人衆」の1人として売り出されていたという鈴木雄大井上鑑にはちょっとその傾向がある気もするけど、「ニューウェーブ」は違うだろ、と今となっては思いますが。むしろ錚々たる「シティポップ四人衆」です。本作はその鈴木氏が87年にリリースした4枚目のアルバム。ここでの聴きものは、本人による卓越したソングライティングはもちろん、なんといっても4曲のアレンジを久石譲が手がけているということでしょう。この時期の久石譲といえば、映画音楽作曲家としてのブレイク前、本人名義作品でもJ-AOR的作品を作っていた頃なので、鈴木雄大の持ち味ともバッチリハマっています。特にM2のいかにも久石譲的風情漂う湿性のメロウネス。たまりませんね。シンセサイザーワークも冴えています。他M5、6も良い。その他の曲は椎名和夫、くりはらまさきが手堅くアレンジを担当しています。バックバンドも豪華。上原裕、長谷部徹、岡沢茂、伊藤広規芳野藤丸土方隆行浜口茂外也、ペッカー、ジェイク・H・コンセプション、土岐英史等、相当に豪勢な顔ぶれ。

 

3.

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アーティスト:藤田朋子
タイトル:THE WOMAN IN ME
発売年:1989年
レーベル:PONY CANYON
入手場所:ディスクユニオン 御茶ノ水駅前店
購入価格:380円
寸評:「THE MAN IN ME」はボブ・ディラン、「THE WOMAN IN ME」は藤田朋子です。私の世代ですと、『渡る世間に鬼ばかり』における聞き分けのない末娘役が大きな印象を締めており、歌手として活動していたことはほとんど顧みられることのないと思われる彼女ですが、このデビュー作含め、ライトメロウ的には傑作揃いなのでした。この1st作で何より特筆すべきが、全編を横倉裕がプロデュース/アレンジを務めているということでしょう。YUATKA名義のGRP盤を以前本「CDさん太郎」でも紹介した横倉氏、ここでも抜群の音楽センスを爆発させています。ブラジリアン風味は抑え気味で、落ち着きのある大人のAORサウンドを聴かせてくれます。また、藤田朋子の英語歌唱も実に巧く、しかも味わい深い。女優さんの余技の粋を軽く越えていますね。Oscar Castro Neves他、横倉氏ゆかりの外国人ミュージシャンが多数参加し、派手すぎず地味すぎず、実に素晴らしい演奏を聴かせてくれます。ずばり名盤。

 

4.

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アーティスト:PETER MERGENER/MICHAEL WEISSER
タイトル:PHANCYFUL-FIRE
発売年:1988年(オリジナル 1985年)
レーベル:キングレコード(オリジナル Inovative Communication)
入手場所:ジャニス 2号店
購入価格:580円
寸評:あまり広く知られてないようなのですが、惜しくも閉店してしまったレンタルCDショップのジャニス、実は中古販売専門店舗は変わらず継続営業しています。これはそこで見つけたニューエイジ名盤。SOFTWARE名義(なんて今っぽいネーミングなんだ!)による活動でも知られるPETER MERGENER & MICHAEL WEISSERのシンセサイザー奏者二人による85年作で、他一連作と同じくKlaus Schulze主宰 のレーベル、Innovative Communicationからリリースされたものを、日本のキングレコードが国内盤化したものです。このInnovative Communication、ニューエイジ全盛期を代表するレーベルで、かなりのリリース数を誇る名門。一時期はLP含めめちゃめちゃ安価で売っていたのですが、このところのニューエイジブームもあり、徐々に店頭で見かけことが少なくなってきました。本作も全編非常に素晴らしく、今の空気にドンピシャと思います。ジャーマンプログレ〜ノイエ・ドイチュ・ヴェレ的なストイシズムと、柔和なニューエイジ〜ヒーリング感が理想的に融合しており、プリミティブなテクノとしても素晴らしい。SOFTWAREの各作、並びにInnovative Communicationのカタログ、出来うる限り集めていこうと思っています。

 

5.

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アーティスト:E-ZEE BAND
タイトル:HOT JAM
発売年:1992年
レーベル:ロックイットレコード
入手場所:ディスクユニオン 下北沢店
購入価格:280円
寸評:前回の「CDさん太郎」にも登場した、ジャパニーズファンクポップバンド、E-ZEE BANDの3rdアルバム。翌年にメジャーからリリースした大名曲「My Girl」で本格ブレイクを果たす前夜ですが、前回挙げたファーストに比べるとかなりこなれてポップ路線に寄せてきている印象を持ちます。1stにあった粗野で猥雑なエレクトロファンクと次作以降の振り切れたポップ路線の架け橋という感じで、今聴くと若干の物足りなさを覚えます。スクラッチの入れ方とか、いかにもニュージャックスウィング以降の感覚なんですが、どこかトッポい(さかしまな表現ですが、デビュー当初のSMAPっぽくもありますね)。それが魅力だとは思うのですが。その中でもシティポップ調のミディアムM4「Shady Dance」、マーヴィンゲイ風スローM8「それでも僕は、一層僕は」辺りはかなり良く、その後のブレイクを期待させてくれます。このバンドの魅力はやはりこういうヒリヒリした青さ漲るメロウチューンだよな、と思わせてくれます。岡村靖幸調の高速ファンクM6「Boys meet Girl」も面白い。思いっきりレニー・クラヴィッツなM7「STAND UP!!」の時代感に微笑。

 

6.

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アーティスト:麗美
タイトル:パンジー
発売年:1985年
レーベル:日本コロムビア
入手場所:ディスクユニオン 下北沢店
購入価格:200円
寸評:松任谷夫妻が全面バックアップした麗美の初期三部作、これで全て揃いました。ユーミン提供曲に特に顕著ですが、ビブラートを極力排した歌唱法にやはりユーミンライクな味わいを感じます。本当に心地よい歌声ですね。正隆氏のアレンジも過不足なく曲を盛り上げます。三部作中ではもっとも地味な印象を受けますが、全てA級クオリティ。現在的ライトメロウ基準ですと、ユーミン曲よりむしろ実姉堀川まゆみ提供曲の方に面白味があるかもしれません。シティポップリバイバルの中でも見過ごされている好作品といえると思います。そのため初期三部作はLP、CDともに相場的にも非常な安価で手に入りますヨ。

 

7.

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アーティスト:THE WIND
タイトル:DANDY STEERING
発売年:1989年
レーベル:日本コロムビア
入手場所:ディスクユニオン 神保町店
購入価格:780円
寸評:国外からのJ-FUSIONへの熱い注目も伴い、現在空前の鳥山雄司リバイバル真っ盛りですが、ソロアルバム以外はまだまだ掘られていない感があります。このTHE WINDは、鳥山雄司を中心に、森村献、石黒彰、本田雅人美久月千晴というメンツが参加したプロジェクト作。作曲も数人で分け合っており、同時期の鳥山雄司のデジタルフュージョン的質感よりもだいぶイージーリスニングよりの作風となっています。そこに若干の物足りなさも感じますが、このCDのBGM的効能を考えると、物足りないくらいがちょうどよいのだろうとも思います。ブックレットにはクルマや大人の恋についてのポエムが掲載されており、強烈な時代感を発散しています。個別の楽曲としてはミディアムファンクのM6、打ち込み主体のファットなファンクM7、山川恵津子作曲のトロピカルテクノサンバM8あたりが出色です。

 

8.

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アーティスト:DOOPIES
タイトル:DOOPIE TIME
発売年:1995年
レーベル:フォーライフ
入手場所:ディスクユニオン 吉祥寺店
購入価格:280円
寸評:「そんな名盤を持っていなかったのかよ案件」です。ヤン富田氏による架空のバンド「DOOPIES」による唯一のアルバム(他にEPあり)。スペースエイジバチェラーパッドミュージックやラウンジ、モンドミュージックブーム華やかりしあの頃を象徴するような盤で、当時兄か姉の友人がこの盤の話をしていたのを覚えています。今聴くと、このいわゆる「90年代的編集感覚」はかなり古色蒼然とたものだなあ…という印象ですね(主にこの“CDさん太郎”で取り扱っているのは、このDOOPIESなどの「オルタナティブな編集感覚」の勃興で却って歴史から抹殺されてしまった知られざる<主流音楽>なのですが、そういったものが復権している現在の空気感からすると、どうしても当時の<オルタナティブ>はより古めかしく感じてしまうというのがあります)。しかしながら、ヤン富田氏仕事ということで当然ながらこのDOOPIESは当時乱発された雰囲気ラウンジモノとは一線を画しており、且つそもそもの音楽的骨格が強靭なので、今でも充分楽しく聴くことができます。当時、この声は誰なの?と話題になったボーカルですが、後にバッファロードーターの大野由美子さんの声をテープ変調したものだということが明らかにされました。

 

9.

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アーティスト:COLORED MUSIC
タイトル:COLORED MUSIC
発売年:2018年(オリジナル1981年)
レーベル:BETTER DAYS(日本コロムビア)
入手場所:ディスクユニオン 吉祥寺店
購入価格:1,280円
寸評:またしても名盤登場です。橋本一子と藤本敦夫によるユニットCOLORED MUSICは、ここに収録されている「Heartbeat」という曲をきっかけに現在世界的再評価が巻きおこり中です。僕は先に何故か、幻の2nd収録予定曲と未発表曲集を編んだ編集盤『INDIVIDUAL BEAUTY』をLPで入手し愛聴しているのですが、この1stをフィジカルとして所持しておりませんでした。今回お手頃価格で高音質CDを発見し、購入した次第。内容については既に色々な方が色々に言及されているので、今僕が付け足すことも特にありませんが、最高の一言ですね。バレアリック、ニューエイジ、シンセウェイブ、アンビエント、様々な角度から面白く聴くことの出来る名盤です。このような音楽が昨今まで熱心なファン以外に殆ど知られずにいたということに、不可思議と奇妙なロマンを感じます。

 

10.

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アーティスト:V.A.
タイトル:冬・の・贈・り・物 ジェントル・スノー
発売年:1992年
レーベル:アポロン
入手場所:ササキレコード社
購入価格:500円
寸評:この日、めちゃくちゃ久々に神保町界隈の老舗レコード店を回ってみたのでした。色んな意味で時が止まっており、感銘を受けました。案の定ほとんど収穫はありませんでしたが、唯一ササキレコード社2Fでこれを発見。季節物イージーリスニングというと基本的に夏を題材にしたものばかりなのですが、これは珍しく冬がテーマ。アポロンお得意の俗流アンビエントかと思いきや、それぞれポップスとして独立した個性を持つ楽曲が収められており、いい意味で期待を裏切られました。作曲家陣が実に豪華で、鈴木茂伊勢正三らが曲を寄せています。他、ボーカルに彩恵津子、ベースに小原礼、ドラムに長谷部徹、キーボードに国吉良一など、ライトメロウ的レジェンドが名を連ねています。各曲「冬」というコンセプトのもと無理やり寄せ集められたような感じで、統一感の欠如という面で制作意図を計りかねますが、鈴木茂作彩恵津子歌のバラードM2、鶴来正基作のジェントルなエレクトロファンク(冬…ですかねこれ?)M3、鈴木茂歌のロッキンAORM5などが聴きどころか。

 

【番外編】
以下、友人のhikaru yamada氏から借りたCD2Wをレビューします。

 

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アーティスト:ロルフ・クライン
タイトル:Restmill
発売年:1998年
レーベル:森企画

 

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アーティスト:ロルフ・クライン
タイトル:崩壊
発売年:1999年
レーベル:森企画

寸評:yamadaさん曰く、神保町古書店の店頭投げ売りコーナーで入手したというこちらのCD、色々調べてみてもその概要は霧に包まれています。ロルフ・クラインというドイツ出身ミュージシャンが日本移住後神奈川県湘南の自宅(?)スタジオにてコンピューターで制作したテクノ作ということのようです。ロルフ氏はかつて『音楽家のためのコンピューター入門』という本を上梓したと帯にあるのですが、その本の情報を突き止めることは叶いませんでした。ドイツの国民的商業ロックバンド「バースコントロール」のメンバーに同名のギタリストがいますが、音楽的にも世代的にも離れているので別人物かと思われます。この2作はほぼ同時期に制作されたもののようで、基本的に音楽傾向的にも近しい内容なのですが、ズバリ定義するならラウンジ風ハードコアテクノ、となるでしょうか。その時代がかった音は正直今聴くには結構キツイ感じもあるんですが、アートワークやブックレットのテキストの不可思議さに通じる無自覚の狂気のようなものがにじみ出ている瞬間がいくつもあり、なかなかおもしろいです。グリッド感の不整合、チージーな音色、レイヤーごとにバース意識がちぐはぐな感じ、いきなりフォーキーな詩情がもたげてくる妙に奥ゆかしいアンビエント感覚など、かなり興味深いです。yamadaさんは端的に「怖い」と表現していましたが、確かに頷けます。

CDさん太郎 VOL.10 2019/3/23〜28購入盤

こんにちは。本記事はCD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第10回目になります。今回は2019年3月23日に上石神井で、25日吉祥寺、27日渋谷、28日に通販で購入したCDを計12作を紹介します。リスニングがなかなか追いつかず前回から若干時間が空いてしまいました。今も積リスCDが徐々に溜まってきているので、一生懸命聴いていきたいと思います。

本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:ニック・デカロ
タイトル:ラブ・ストーム
発売年:1991年
レーベル:ビクター
入手場所:ブックオフ石神井
購入価格:280円
寸評:自宅から最も近いブックオフであるにもかかわらず、そもそも西武新宿線を使うことが稀なので(使ったとしても帰路夜遅くになるため)あまり行く機会のないブックオフ石神井店。この日は一日家で作業していたので、散歩がてら気分転換に訪店。はたして、かなり良い成果を得ました。このニック・デカロによる91年作は、予てより色んなCD屋で見かけていたのですが、なんとなく今まで買わずにスルーしていたもの。が、冷静になって考えてみると、91年という、昨今ハマっているライトメロウ文脈からは黄金と言える時代、しかも山下達郎カバー集、その上サブスク未アップという購入への好条件揃い踏みななのでした。この時期国内レーベルから、日本のニューミュージック作家のオリジナル曲を海外アーティストにカバーさせるという企画が乱発されたのですが、基本的に適当なカバーでお茶を濁すことも多く聴くべきものは少ない印象です(ユーミンとサザンがそのジャンルの二大王者です)。しかし本作は、山下達郎自身も選曲に参加し敬愛するニック・デカロのために様々な面で丁寧なセッティングがなされているのが感じられる、非常に高クオリティなアルバムなのです。AORニック・デカロとえば、アレンジャーを専業とする人なので、名盤『イタリアン・グラフィティ』(74年)にも聴かれる通りボーカリストとしては音域も狭く決して技巧的とは言えない人なのですが、さすが山下氏、そういったニック・デカロの声域やクセ、ならびにメロディーの好みを熟知した上で選曲を行っているようです。どんな曲が取り上げられているかというと、アルバムタイトル曲をはじめ、「タッチ・ミー・ライトリー」「クリスマス・イブ」、「エブリーナイト」「ビッグ・ウェイブ」「オンリー・ウィズ・ユー」「ザ・ガール・イン・ホワイト」「ラブ・マジック」と、硬軟取り混ぜた素晴らしいもの。聴きものがこの企画のために書き下ろされたM5「グレート・コミュニケーター」。最高。「クリスマス・イブ」のアレンジも溜め息もの。バックを務めるのは、ディヴィッド・T・ウォーカー、ディーン・パークス、ニール・ラーセン、ハーヴィー・メイソンといった神々レベルのミュージシャンたちです。相当な安価で売っているのをよく見かけますので、発見したら絶対に買いです。大名盤と言っていいと思います。個人的に『イタリアン・グラフィティ』レベルに好きかもしれません。

 

2.

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アーティスト:ボーイ・ミーツ・ガール
タイトル:ボーイ・ミーツ・ガール
発売年:1988年
レーベル:MIDI
入手場所:ブックオフ石神井
購入価格:100円
寸評:以前light mellow部(の紙版?)にも登場していた記憶があるのですが、詩人・尾上文とギタリスト今井忍によるユニットの1st EPです。尾上氏は87年に坂本龍一がホストを務めたラジオ番組『サウンドストリート』にてデモテープ大賞を受賞したこともあるという経歴の持ち主。どういう経緯でこのグループが発足したのか謎めいておりますが、個人的に幼少期の記憶として、この頃青春ポエトリーという感じのブーム(銀色夏生さんや、もっと広範的にいうなら山田かまちなども)があったことを姉の本棚などから感じ取っていた身からすると、「あ〜、あの時代だなあ」という感慨が…。冒頭M1「裸足で散歩」の山下達郎スパークル」的カッティングに象徴されるように、このアルバムのテーマは「都会の男女による青春群像」という感じでしょうか。ユニット名はおそらくレオス・カラックスの同名映画からでしょうが、もちろんあそこまで抽象的な世界ではなく、もっとポップな、原田宗典の小説にような青々しさを感じます。そこが日本的でいい。ポエトリーリーディングといってももちろんシアトリカルなものではなく、かなりフロウ的で、もしかしたらラップも視野に入っているのかな?という感じです。佐野元春のラップや初期かせきさいだぁに近い感じかしら。声質は友部正人加川良風のフォーキーボイスで、そのイノセンスも素敵。しかし、こういうのをフルアルバム尺で聴くのはたしかにきついなあというところで、EPってのがちょうどよいですね。

 

3.

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アーティスト:バート&ジョー・ウルフ
タイトル:トランシジョンズ2 胎内宇宙
発売年:1995年(オリジナル:1990年)
レーベル:プレム・プロモーション(オリジナル:Transitions Music, Inc.)
入手場所:ブックオフ石神井
購入価格:100円
寸評:米アトランタの麻酔学専門医フレッド・J・シュワルツ監修の胎教音楽シリーズの2作目で、1990年に本国リリースされていたものを俗流アンビエント界の大手レーベル「プレム・プロモーション」が国内盤としてリリースしたものです。音楽を手がけるのはバート&ジョー・ウルフというニューエイジ系作家なのですが、これが実にスペーシーな内容で良い。vol.1はもっとクラシック寄りのものらしいのですが、これは相当にメディテーショナルなドローンアンビエントで、胎内音を模したサウンドとともに時折うっすらと女性コーラスが泳いで来たりも。リスニング音楽としてもなかなかに優れているという印象を持ちました。全1曲60分。

 

4.

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アーティスト:PROJECT INSPIRE
タイトル:SIBERAIN ヘルス・コントロール 〜ベスト・ウェイトを〜
発売年:1991年
レーベル:BMGビクター
入手場所:ブックオフ石神井
購入価格:280円
寸評:外資系メジャーレーベルは、当時あまり俗流アンビエント的なアイテムを制作していなかったのですが、BMGビクターもその例にもれず、おそらくこの「ウェルネス・ミュージック・シリーズ」がほぼ唯一のラインなのではないかと思われます。本作はタイトル通りダイエット効果を謳った作品。同シリーズ、数枚所持しているのですが、案の定というか、期待される効能と音楽内容の棲み分けがよくわかりません。アーティスト名の「PROJECT INSPIRE」もおそらく実態のある名前でなく、あくまで匿名的なプロジェクトということになるかと思います。実際に誰の手によるものなのか気になるところですが、ブックレットにもそういった記載は皆無。キングレコードの「サウンド・オブ・トランキリティ」シリーズなどでも多く作品のある元ヘヴィメタルアーミーの中嶋優貴(YUHKI)氏の作風とかなり似ており、契約関係上別名義で取り組んだ作品なのではないかなと推察したくなりますが、どんなもんでしょうか。ジャパニーズプログレ由来のシアトリカル感のある俗流アンビエントニューエイジです(あまり私の好みではありません…)。

 

5.

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アーティスト:フィフス・アヴェニュー・バンド
タイトル:リアリー
発売年:1990年
レーベル:VILLAGE GREEN(PONY CANYON)
入手場所:ブックオフ石神井
購入価格:100円
寸評:アメリカンロック界で最も早い時期に都市的洗練をまとった音楽を作り上げた伝説のバンド、フィフス・アヴェニュー・バンド。その泣く子も黙る69年作は、のちのAORの素の素になったものとしてスーパーマスターピースとされますが、一般にこの再結成版への評価は高くないのでした。それでも2010年にはSHM-CDとして再発されるなど、ファンにとってはおなじみの作品です。これも上記ニック・デカロとおなじく今までなんとなく敬遠してきた1枚です。しかしながら、今2019年に聴くと実にいい塩梅ですね。ファースト時にはピーター・ゴールウェイが主導権を握っていた感のある彼らですが、その後ゴールウェイがソロ作を重ねていく中である種ストリートロック的な世界に接近していったこともあり、2019年的感覚に照らしての本作での聴きものはジョン・リンドやケニー・アルトマンによる純AORチューンの方でしょう。ジョン・リンドはヴァレリー・カーターとのハウディームーンを経てアース・ウィンド&ファイアーなどへも曲提供を行ってきた人ですが、そういうキャリアの旨味がよく出ていると思います。音色は思いっきり1990年風のデジタルサウンドなため、オリジナル時代が好きな人からすると敬遠したくなるのも無理はないかなと思ってしまいます。が、今はこれがいいんですね。プリセット感バリバリのシンセ音がたまらないですね。ちなみにこの作品、ポニーキャニオン原盤の日本独自制作で、この時期アメリカンロックレジェンドたちの新作や編集版を盛んに出していた社内レーベル「ヴィレッジグリーン」からリリースされました。プロデュースにはピーター・ゴールウェイの盟友、長門芳郎さんもかかわられています。

 

6.

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アーティスト:村瀬由衣
タイトル:水曜の朝、窓を開ける
発売年:1992年
レーベル:ファンハウス
入手場所:ブックオフ石神井
購入価格:280円
寸評:ハタさんの「シティ・ポップ記録簿」にも登場し、特に1993年の3rdアルバム『眠る記憶』が名作と称賛されているので、界隈の方にはおなじみであろう村瀬由衣(なので、ここで僕が語るべきことはすでに少ないのですが)。私もその『眠る記憶』を昨年手に入れ愛聴しているのですが、なかなか見かけづらいとされるこの1stが上石神井店にポツンと売っていたので一も二もなく買いました。ハタさんも書いている通り、前半からM5タイトル曲にかけての流れが素晴らしいですね。しかしながら、どこか腰が入っていないというべきか、ややアレンジが上滑りしている感があるのは、楽曲と編曲のコンビネーションのすれ違いにあるような気もします…。しかしその中でもM5は繰り返し聴くうちにかなり気に入りました。「水曜の朝、窓を開ける」というタイトルがいいですねえ…。そんなことはないかと思いますが、水曜の朝にDJをする機会があればこれを是非とも掛けたいですね。

 

7.

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アーティスト:E-ZEE BAND
タイトル:Paisley Lover
発売年:1990年
レーベル:ロックイットレコード
入手場所:ブックオフ 吉祥寺店
購入価格:280円
寸評:ちょうどこの2日前の上石神井周遊のとき、有線からこのE-ZEE BANDによるヒット曲「My Girl」が流れてきたのでした。その曲を全然知らなかったのですが、あまりにいい曲だったものでその場に立ち止まって最後までじっくり聴いてしまったのでした(なんなら少し落涙した)。ブックオフ280円棚でもよくそのCDを見かけていたので、E-ZEE BANDの存在は知っていたものの、こんな素晴らしい人達だったんだ!と衝撃を受け、早速翌々日に発見したのがこの1stアルバムです。このバンドはひとことで言ってしまえば「ファンクポップ」ということになるかと思いますが、上述の「My Girl」はその中でもかなりポップよりのもので、ある種のスウィートさもあるのですが、この時期はまだまだゴリッとしたエレクトロファンク丸出しで、それはそれで実にかっこいい。大沢誉志幸岡村靖幸林田健司などといったファンククリエイターが数多く活動したこの時代ですが、そうした強烈な個性達に比べるとこのE-ZEE BAND及びリーダー兼ソングライター兼ボーカルのイクマあきら氏にはどこか人懐こさを感じます。声質的にはもしかしたら上記の人々の中でも最もプリンスに近いかもしれないのですが、プリンス的なキレ味というよりもどこか親しみやすいトッポさがあり、それがたまらなく良いですね。この作品、全編にわたって相当な好内容ですが(演奏も巧い)、特に素晴らしいと思ったのが95%打ち込みで作られている(時期的、サウンド的にDX-100あたりのヤハマ製シンセか?)M5「GIRL FRIEND」ですね。これちゃんとミックスしました?っていう、めちゃくちゃライン感のある硬質な打ち込みなのですが、楽曲自体がまあポップなファンク歌謡調で、そのミスマッチ感が不可思議な説得力を湛えた仕上がりになっています。ヒップホップ的というか、この生々しさはちょっとサウスとかG-FUNKに通じるような美学も感じますね。

 

8.

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アーティスト:MIKI
タイトル:FEEL DANDY
発売年:1990年
レーベル:ビクター
入手場所:ブックオフ 吉祥寺店
購入価格:500円
寸評:anoutaさんによる「トレンディ歌謡」に取り上げられているのを読んで以来すごく聴いてみたくてずっと探していたんですが、吉祥寺のブックオフコーナーに転がってました。その「トレンディ歌謡」の記事に詳しく情報がまとめられているので、ここで僕が付け加えるべきことは殆どないんですが、期待していたとおり相当に好内容です。このMIKI氏、あまりに匿名的なアーティスト名なので情報収集がかなり難しいのですが、これ以前に橘美喜の名でペッカー編曲のレガエ歌謡名曲「秋冬」を残している方のようです。村上秀一、岡沢章、佐藤允彦らも参加した高品質のフュージョンファンク風オケはかなり端正なのですが、MIKIのハスい歌声が炸裂し、ドテラい酒場感が。この声、誰かに似ているなあ…と思って聴いていたのですが、大西ユカリさんですね。相当に似ていると思う。M5のレガエも良い。

 

9.

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アーティスト:坂本龍一
タイトル:The Fantasy of Light & Life
発売年:1990年(非売品)
レーベル:KAB INC.
入手場所:ブックオフ 吉祥寺店
購入価格:500円
寸評:1990年に開催された大阪花博(わたしも当時親戚のおじさんに連れて行ってもらいました)内、「ひかりファンタジー 電力館」のエキシビション音楽として坂本龍一が制作したものを、当時会場内限定のお土産用としてCD化した商品です。これはおそらく氏のキャリアでもっともニューエイジ的なものに接近した音楽として、今となっては非常に貴重なものです。全体にアンビエント色が強く、電子音楽と生ピアノが絶妙に融合した相当なクオリティの作品集です(坂本氏なので当たり前だけど)。注目すべきは共同プロデュースとして日本環境音楽のエース小久保隆氏が関わっているという点でしょう。下で紹介しているlight in th Atiicの『Kankyo Ongaku』に入っていても一向におかしくない内容です。妙に俗的なライトクラシック風の曲も散見され、オリジナルアルバムにはあまりないそういうところが好き。特に良いのはM7のジャーマンシンセ音楽オマージュ「ひかりのワンダーワールド」でしょうか。あと、ブックレットがサンタナの『ロータスの伝説』みたいな特殊仕様で、気が利いております。一般非売品と言えどもそこまでレアではなく、稀にCDショップでも見かけます。

 

10.

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アーティスト:MITSUHIRO
タイトル:α波 1/fゆらめぎ 神経疲労解消のための音楽 波の音を聴きながら
発売年:1997年
レーベル:BANDAI MUSIC ENTERTAINMENT
入手場所:レコファン 渋谷店
購入価格:108円
寸評:各レーベルに大量のヒーリング音楽を吹き込んでいるシンセシスト、MITSUHIROこと光氷櫓。アポロンBANDAIと業務提携を結び社名を変えたBANDAI MUSIC ENTERTAINMENTからの本シリーズは、97年という俗流アンビエント全盛期後の時代もあってそこまで中古市場で玉数を見ないのですが、渋谷で発見。この時期になると本ジャンルでも音楽傾向の整理が進み、非常に洗練された、悪くいえば中庸なものになっていります。全5曲収録となっていますが、基本は2つの楽曲を微妙にバージョンを変えて反復するもの。ひとつはクラシカルなフレーズが反復する保守的なもので、もうひとつは非常にゆったりしたBPMでごくシンプルなシンセフレーズが2和音でループされるものです。どちらかというと後者の方がアンビエントとしては優れています。また、こういうCDをたくさん買っているうちに気づくのですが、波の音にもいろいろな傾向があって、中には「ザッブーン!バシャバシャ〜!」といった派手ではしたないものもあるのですが、これは実に奥ゆかしい波打ち際のさざめき音を使用しており、そのへんに好感が持てます。

 

11.

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アーティスト:최연제(Choi Yeon-Je)
タイトル:1집 소중한기억
発売年:1992年or1993年
レーベル:SKC
入手場所:レコファン 渋谷店
購入価格:650円
寸評:韓国ライトメロウに入門したいこのごろ。2016年に韓国に行った際はあまり時間がなくそういうディグをできなかったこともあり、今年改めて行きたいな〜と思っております。その予習も兼ねて、日本でそれらしきものを見つける度に買うようにしているのですが、これもその一環です。なにせハングル語にまったく通じていないため、この최연제がどんな方で本作がどんなアルバムかということもほとんどわからないのですが、稲垣吾郎主演映画「Private Lessons」の主題歌のカバーをヒットさせたことで韓国では著名なシンガーのようです。内容的には残念ながらライトメロウというよりもっとMOR的な女性シンガーというべき感じです。辛うじて、ファンキーなM6、K-AORなM7はライトメロウ的視点からも評価できそうです。他、ハイエナジー調、ニュージャックスウィング調など、この時代の雰囲気が濃密に閉じ込められている感じです。

 

12.

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アーティスト:V/A
タイトル:Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990
発売年:2019年
レーベル:Light in the Attic
購入サイト:amazon
購入価格:3,083円
寸評:本“CDさん太郎”初の新譜CDの登場です。これまで何度も本ブログでもその名が挙がり、あるいは、このところ色々な方々から言及されている本作、実をいうとこれまでパッケージ購入をずっとためらっていたのでした。というのも、本当はLPでほしかったのですが、初期アクションに失敗し安価なものは売り切れ。その後各サイトの並行輸入状況を注視していたのですが、ウナギのぼりに値段が上がっていく有様。サブスクでももちろん聴いているし(上がっているのは抜粋版ですが)、個別には持っている楽曲も多かったのですが、ブックレットが充実しているらしいこともあり、やはりこれを手元に置かない手はないよなあ…とグチグチ考えていたらあっという間に時は経ち。先日HMVの店頭でLPを見かけもしたのですが、めちゃくちゃに高くて。もうCDで買おう!と決心したのでした。で、アマゾンで注文してから約一週間で届いたのがこれです。内容については素晴らしいの一言。監修者のスペンサー・ドーラン並びにLight in the Atticのスタッフの熱意に頭が下がります。一応私も業界にいるので察しますが、こういう各メジャー音源を一曲づつ集めるコンピレーション盤が一番制作的に大変というのもあり、その苦労は並大抵でなかったはずです。ブックレットの充実、デザイン、仕様、総て120点です!しかしこの作品、こんなに話題になっているのに何故これほどまでに日本への流通が渋いのでしょうか。推察ですが、例の細野さんのLP諸作と同じく、ライセンサーである各国内メジャーが、日本への逆輸入防止のテリトリー制限事項を契約書に盛り込んでいるのではと思います。そのあたり、是非とも今後の是正を検討いただきたい。著作権処理が未整備という理由で国アーティストのYouTube動画へテリトリー制限をかけたり、海外向けサブスク販売を制限したり、そういった流れもだいぶ緩和されつつあるなか、権利運用を更に推進していくことの重要性が喧伝されていながら、杓子定規にその出口(マーケット)への蛇口を閉めてしまっては本末転倒なのではないでしょうか。法整備面の不備もあるかとは思うのですが、こういうの、どんどん変わっていくべきだと考えます。

 

次回へ続く…。