CDさん太郎 VOL.1 2019/2/9

 相変わらずCDを買っています。今さら。いや、今だからこそ。

 サブスクリプション配信サービスの定着期を経て、ヴァイナル復権も定着した昨今、かねてより喧伝されているように、CDという存在は既にその役目を終えつつあるものとして見做されています。かくいう私も、以前よりも新譜をCDで買うということは頻繁ではなくなりましたし、かつてはあんなにも熱心に集めていた中古CDへとんと興味を失った時期もありました。

 さらに、2016年の初頭には、久々の引越しという個人的な状況も重なって、所持しているものの内たぶん1/5位に及ぶおよそ4,000枚ほどのCDを売却処分をしたりしたのでした。「どうせサブスクで聞けるでしょ」というのと「何かを所有する」ということへの疲れ(往々にしてものを集めてきた人は30代を中心にそういう倦みを経るらしいですが…)から、ぐわっと処分してしまったのですが、案の定、今になって後悔していたりします。それは、「あの資料が無い!どうしよう! 」といったようなリアリスティックな困難がそう思わせるものでもありながら、何よりもまず「あ、CDって…やっぱり好き…だったんだな」っていうことが、今CDが滅びそうになっているからこそ再帰的に湧き上がってきているということからくるのかもしれません。そういう感慨って反動的なものだとされるかもしれないけど(実際自分でもそう思うこともあるけど)、昨今のアナログブームだってもとはそういう再帰的な渇きのエモーションからきていることは自明だし、いつCDにそういうモードが訪れてもおかしくないとも思っています…。

 まあ、CDというものが単なる旧式の記録メディアとして見做されつつある今、そこへわざわざフェティッシュを見るという意味においては、古色蒼然としたサブカル的B級趣味の幻影を再び喚起してしまうかもしれないことも承知しています。しかし、もしそれだけだとしたら、僕はむしろCDなど触りたくもないし、なんとなればそこに格納されている音楽すら聴きたくもないのだけど、めちゃくちゃワクワクさせてくれる(?)ことに、昔にリリースされ今やその存在すら忘れられてしまったようなCD作品でしか触れることのない音楽がまだまだ世に中には大量に存在することも事実なのです。

 かつて、レアなヴァイナル作を指して「未CD化作品」という言い方があったのですが(懐かしい…)、今となっては、「未サブスク配信」、もっと敷衍していえば、YouTubeなど含めたネット空間で試聴することすら、あるいはその概要すら不明な「ネットにあたっても情報不明」なものが沢山あって、それらが今後もしかしたら独特の価値を形成していく可能性を感じたりしているのです。「次のレア・グルーヴはCDからくる」。そうなのです、というかおそらく、そうであるしかないと思っています。今や、一番ディープな<未知>はネット空間以外(=あの頃のCD)にあるのだから。

 ネットを徘徊する先駆的ディガー達が、そこ(ネット空間)に飽和を嗅ぎ取ったら、じねんとネットの外側(=フィジカルメディア、あるいはそれらが捨て置かれているショップ)を探索するようになるしかないし、実際今そういう動きが起きていることは、至るところで語られ始めていることでもあります。(Vaporwave的価値転倒以降のディグしかり、light mellow部しかり、手前味噌ながら俗流アンビエントしかり…)

 そんな中、今実際に同時多発的に起こりつつ有る「CDのディグ」を、既存メディアに倣った習熟的筆致によるレビューというカタチでなく、もっと未整理のまま乱脈的なままに、ディグのその瞬間、その場、<CDを買う>という体験の埒の無いドキュメント性を、雑多にネット空間へひたすら置いていく、そういうものがあったら面白いのではないかと(少なくとも自分にとっては)思っているのです。その非洗練とブリコラージュ性、そしてあるいは、聴取というものに意味が付与される前の、タイニー且つ鉄火場的リスナー空間。CDを買って自宅に帰り、プレイヤーに載せて、プレイする、あの連続的で、<音楽ソフト>という存在に個人的時間を侵食される感覚…。そういったものが、時に駄菓子のような値段で棄て売られているCDを今買うことで、むしろ瑞々しく立ち上がること。ほんの少しでもいいので、それらを描き出し、そういうのが好きな方々にご笑覧いただければ良いなと思っています。あわよくばみなさんもCDを掘られますことを。

 前置きが長くなりすぎました。

 第一回目は本日2019/2/9に無目的に買ったCDから行きましょう。

 

※凡例として

・ジャケット写真、アーティスト名、タイトル、発売年、レーベル、入手場所(場合によってはシチュエーションも)、購入価格を記載の上、寸評を書いていきます。

・アナログ盤もDAISUKIなのでもちろんよく買うんですが、ここでは上述の意図通り、CDに特化します。

・少なくとも一度は耳を通した状態で書いていこうと思うので、購入記録としてリアルタイムに更新することが難しい場合もあり、紹介CDが購入の時系列と前後するかもしれません。

・主に新譜はサブスクリプション配信やLP購入で鑑賞する癖がついてしまったので、おそらくこのシリーズにはほとんど登場しません。

・作品レビューではなく記録的性質が大きいので、情報下調べなど甘い部分が出てくるかもしれません。誤記載など、忌憚なく指摘いただければ幸いです。

 

1.

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アーティスト:Steven Halpern & Dallas Smith

タイトル:Threshold

発売年:1987年(オリジナル1984年)

レーベル:国内盤レーベルPONY CANYON、オリジナルHalpern Sounds

入手場所:ブックオフ吉祥寺店

購入価格:400円

寸評:米の哲学博士兼マルチ音楽家、Steven Halpernは、70年代半ばから尋常でない数(誇張じゃなくてJandekの如し。ちなみに75年リリースの初期作「Spectrum Suite」は一般向け音楽療法作品の先駆け的名盤として名高い)の作品をリリースしており、見つけるたびにダラダラと買ってしまうのですが、米ニューエイジ的抹香臭さと、シリアスな電子音楽の折衷という感じで、どれも素晴らしくて。これはフルート奏者Dallas Smithとの共演盤で、氏の作品の中でもかなりクオリティの高いものの一つだと思います。シンセシストとしてより音楽療法実践家としての評価がせり出ている感のあるSteven Halpernですが、純粋に鑑賞音楽としてもとても好ましい米版俗流アンビエントかと思います。後期タンジェリンドリームやクラウス・シュルツェ的ジャーマンプログレ感もあり、なかなかの一作。今これを書きながら聞いてますが、いい意味でまったく耳に入ってきません。こういうものが国内盤発売されていた時代、それが80年代後半というもの。

 

2.

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アーティスト:V.A.

タイトル:Electronic Toys (A Retrospective Of 70's Synthesizer Music)

発売年:1996年

レーベル:Q.D.K. Media 

入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店

購入価格:480円

寸評:これは嬉しい!70年代ヨーロッパのライブラリー系レーベルに残されたシンセサイザーを駆使した背景音楽を、モンドミュージックリバイバル以降にコンパイルした作品。お色気ジャケもいかにも90年代からみた「あの時代」的質感。Dave Vorhaus(White Noiseのあの人)やRon Geesinなどのロックファンにも名前の通った作家から、ほとんど無名の方々まで、キッチュかつスペーシーなチューンをコンパイル。Q.D.K. Media は、ドイツの再発レーベルで、ポップとアヴァンの間を行くような作品を多くリイシューしています。これはまさに、昨年翻訳され話題になった、マーク・ブレンド著、オノサトル訳『未来の〈サウンド〉が聞こえる 電子楽器に夢を託したパイオニアたち』や、名著『エレベーター・ミュージック』に通じる世界ですね。それにしても、一言でライブラリーといってもかなり多様で(あたりまえなのだけど)、シリアスなものから、コミカルなもの、浮遊感溢れるシンセポップまでかなり多岐にわたる。そういった各曲がはいっているオリジナル・アルバムがCDでストレートリイシューされることはまあ稀なので、こういうコンピに頼るしかない状況もあるんですが…。

 

3.

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アーティスト:V.A.

タイトル:デモテープ1

発売年:1991年(オリジナル1986年)

レーベル:MIDI

入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店

購入価格:480円

寸評:言わずとしれた、82〜85年にかけて(その後散発的に復活)坂本龍一がナビゲートを努めていたNHK-FMサウンド・ストリート」に投稿された素人の方々のデモ音源の中から、優秀なものをコンパイルした盤。プロデュースは坂本龍一矢野顕子。この盤が著名なのは、アマチュア時代の槇原敬之テイ・トウワの音源が収録されていることからでしょうね。実際、この二人の作品クオリティは明らかに抜きん出いる…。他色々な方々が、ローファイポップ、RCサクセション風、インディーテクノポップ等に挑戦しており、MIDI普及期の直前YMOブレイク後の日本初期宅録風景を捉えたものとして貴重。これはYMOファンなどにとっても有名な盤なのですが、普段V.A.コーナーを漁らないので、その存在を近年知ったのでした。以前、長野まで車でドライブしていた際、助手席に乗っていた友人の新間君がかけてくれて、それ以来いつか買いたいなと思っていたものを今日やっと…。

 

4.

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アーティスト:尾島由郎

タイトル:ハンサム

発売年:1993年

レーベル:Newsic

入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店

購入価格:480円

寸評:これは今日一番の、というか今年に入って一番のラッキーアイテムかも。ジャパニーズアンビエント再評価が花盛りであることはもはや既知のことかとおもうのですが、この尾島由郎氏の作品への国内外から最注目もすごいものがあって。LP含め、ほとんどプレ値以下での入手を諦めているのが現状なのですが、こんな値段で転がっているなんてー!しかもブックオフとかじゃなくて、ディスクユニオンで。ありがとうございます…!ちなみにDiscogsの参考価格は1万円弱ですね(まあ、サブスクでも聞けるのですけども)。内容としては氏の作品の中でもかなりヘン、悪くいえばとっちらかってる感じなのですが、それはゲスト参加陣の多様さによるものでもあって、コシミハル (voice) , 柴野さつき (piano & voice) , 周防義和 (guitar)中野テルヲ (synthesizer & sampling) , 菊地純子 (dance step) , パトリス・ジュリアン (voice) 他というメンバーが立ち代わり各曲に登場する形です。冒頭、いきなり時代がかったテクノがおっぱじぱってしまい相当面食らうのですが、アルバムが進むに連れて尾島氏ならではの深〜いアンビエント世界が現出。特にコシミハルの語りを伴う曲の素晴らしさよ…。これ書きながら一度寝落ちしました。

 

5.

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アーティスト:長山洋子

タイトル:オンディーヌ

発売年:1987年

レーベル:ビクター音楽産業株式会社

入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店

購入価格:480円

寸評:現在は演歌歌手として活動する長山洋子がアイドル時代にリリースした3rdアルバム。88年の『F1』がシティ・ポップ名盤として有名(昨年のレココレのシティ・ポップ特集でも枠を与えられていたし、light mellow部のブログでも取り上げられていたような記憶が)な彼女ですが、これはどうなんだろうなーと思いながら購入。はっきりいって、シティ・ポップとしては若干肩透かし感もあるのですが…むしろシンセポップ歌謡ととらえるとなかなかの名作では(実際シンセのサウンドはかなり上質)!?作・編家陣も松岡直也西平彰武部聡志という一瞬メロウを期待させる感じなのですが、あんましそういうサウンドじゃないですね。私は大のフリートウッド・マック・ファンなので、「ビッグ・ラヴ」のカヴァーが小嬉しい。M5「マザーズボーイ Wow Wow」は同時期のマドンナ的フィールあるな、とおもったら、M6では実際に「ラ・イスラ・ボニータ」を地味カヴァー。M10「アリス」は後もう少しでバレアリックになりそうな寸止め感のあるトラック。タイムスリップして「もっと大胆に!」とサウンドディレクションしたい。この前後の彼女のアルバムはユーロビート調らしく、本作は「落ち着いた」作風なのだそう。一旦アダルト路線にチャレンジしたけど、やっぱりバブル的ハイエナジーサウンドへ回帰したという物語。

 

次回へ続きます…。