CDさん太郎 VOL.2 2019/2/10購入盤

 こんばんは。本記事は、<次のレアグルーヴはCDから来る>を標語とする(?)、CD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」のVOL.2になります。

初回たる前回、べらべらと序文で文字を連ねすぎたので、早速本題へ移りたいと思います…。(本シリーズ要旨、並びに凡例は第一回目のエントリをご参照ください)

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

今回は、2019/2/10に東京新宿界隈で購入したCD群について紹介します。

 

1.

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アーティスト:YUTAKA
タイトル:Brazasia
発売年:1990年
レーベル:国内盤レーベル ビクター音楽産業株式会社、オリジナル GRP RECORDS
入手場所:ブックオフ新宿 東口店
購入価格:200円
寸評:1952年東京生まれ、セルジオ・メンデスに影響を受け音楽活動を開始したYUTAKAこと横倉裕氏が米GRPレコードに吹き込んだブラジリアン・フュージョン作。バンドNOVOでの活動後、単身渡米し78年にソロデビューしていた氏ですが、その後はレコードリリースとは疎遠になりようやっと88年にセカンド作を出して後、その好評の波に乗ってリリースされたのが本作。GRPといえばデイブ・グルーシンとラリー・ローゼンによるレーベルで、フュージョン界における名門。数年前に大規模な国内盤CDリイシューがあり、本作もそのラインナップに選ばれていたのですが(わたしがこの盤の存在を知ったのもその時)、今回購入したのは発売当初にリリースされた旧規格盤です。内容はというと、実はあまり期待せずに買ったのですが(過去何度か本盤をショップで見かけたのですが、スルーしていた)、相当に素晴らしいです…!フュージョンが爛熟しきったあとにリリースされたということもあり、サウンド・プロダクションの微に入り細に入ったクオリティはもちろんのこと、全てYUTAKA本人によるというオリジナル曲の出来映えがっ!特にM1アルバム・タイトル曲の快感よ…。ハイファイでクリアなアッパークラス系サウダージ。本人のボーカルのジェントルで青々しい(この時点で既におじさんですが…)魅力。そして、安易なジャポニズム的記号性に回収されることのない、YUTAKA自身の演奏によるシーケンシャルな琴の響き。ここに<バレアリック>を感じるのはさして難しくないでしょう。他曲もかなり良い。見つけたら迷わず買われることをおすすめします。多分相当に安価で手に入るでしょう。

 

2.

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アーティスト:CLAIRE HAMILL
タイトル:VOICE
発売年:1986年
レーベル:国内盤レーベル PONY CANYON、オリジナル CODA RECORDS
入手場所:ピュアサウンド新宿店
購入価格:108円
寸評:新宿駅東口を出て徒歩2分、路地裏に佇むエロビデオ屋<ピュアサウンド>新宿店の店頭安売りコーナーにて発見。ブックオフが正常値付け傾向にある今、エロビデオ屋の店頭は最後のカストリ・サンクチュアリなのかもしれません。といいつつもまあ、ニューエイジリバイバル華やかりし今にありつつも、このアルバムをオリジナルリリースしているレーベル<CODA>の各作は、どこにいっても基本投げ売り対象になっている印象がありますね。元々72年にアイランドからデビューしていた英フィメールSSW、クレア・ハミルが(アイランド時代、そしてキンクスのレイ・デイヴィス主宰「コンク」からリリースした諸作は英フォーク・ロックの逸品としてどれも相当に素晴らしいです!)、UKニューエイジの先駆的レーベルである前掲の<CODA>からリリースした作品。タイトル通りクレア・ハミルのボーカル多重録音を主体にした作品で、賛美歌やグレゴリオ聖歌などに通じる宗教的なテイストがありつつも、曲によって電子楽器が織り込まれ、低体温的でストイックに展開していく様は、ニューエイジというよりまるで、コクトー・ツインズなど初期<4AD>レーベル作品のようですらあります。ということで、色々な角度から現在再評価できるアルバムだという気がしますね。

 

3.

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アーティスト:作山功二
タイトル:MUSIC FOR DENTISTRY vol.1 YUME
発売年:1990
レーベル:ABER
入手場所:ブックオフ荻窪
購入価格:500円
寸評:相変わらずコツコツと掘っている俗流アンビエント、情報欠乏ということでいえば他ジャンルの比ではなく、購入にあたってはほとんどギャンブルに近い感じなので、家に帰って聞いてみて「アチャー!」ということもままあるんですが、このCDも完全にその部類でした…。タイトル通り歯医者さんの待合室〜治療室での使用を想定されたCDなのですが、タイトルにひっぱられてブライアン・イーノシンセサイザーアンビエントを想定した私が愚かでした。実際は実にピアニック(ピアノ音楽的。おもにマイナー・ペンタトニックスケールを用い、主情的旋律、歌謡的な感傷が伴うことが多い。この形容詞は主に悪口として使っています…)なアコースティック・イージーリスニングで、今の感覚からすると箸にも棒にもかからないものでしたね。ジャド・フェア的なジャケットなどからヘンに期待してしまったのですが…。作者の作山功二氏はアニメ音楽界などでも活動し、どういう訳なのか由美かおるなどが所属する芸能プロダクション「トゥ・フロント」の所属アーティストらしいので、これ以上悪口を言うと僕が消されてしまうかも知れません。歯科医の方で本CDを買い取りたい方募集します。

 

 4.

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アーティスト:Frank Kawai Hewett
タイトル:Makalapua ‘Oe
発売年:不明、オリジナル 1982年
レーベル:Prism Records Hawaii
入手場所:ブックオフ新宿西口店
購入価格:100円
寸評:ハワイアン・フラダンスの普及に尽力し、ここ日本でもその伝道師として30年以上活動を繰り広げるらしいFrank Kawai Hewett氏による82年作…という左記情報はなんとかネットに転がる情報をつなぎ合わせて見えてきたものなのですが、実際その筋(フラ)ではかなりの重鎮らしいです。ハワイ伝統音楽といえば、ライ・クーダーらが啓蒙したギャビー・パヒヌイなどのスラックキーギターミュージックを彷彿とするわけですが、フランク氏の音楽にもいちおうその系譜を強く感じます。けれど、なんというか…どこか拭い難い俗的ニュアンスが溢れ出ており、抹香臭さ〜!おそらくこの中古CD、日本で薫陶を受けた生徒さんのどなたかが売り払ったものなのではないでしょうか?こうしたCDがピカピカの発売時に一般流通に乗ったとは考えづらく。だからこそ、ブックオフをはじめとした中古CDの<墓場>には普通では手に入らないものが手に入ってしまうというスリルがあるんですが…。

 

5.

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アーティスト:大橋節夫
タイトル:ハワイアン・ベスト・アルバム
発売年:1990、オリジナル1985年
レーベル:キングレコード
入手場所:ブックオフ新宿西口店
購入価格:108円
寸評:ハワイ繋がりでもう一作。日本戦後ハワイアンの代表的スティール・ギター奏者「オッパチさん」こと大橋節夫による85年キングレコード吹き込み。戦後直後の第一次ハワイアンブームの立役者ともいえる彼だが、この時期の前にはむしろムード歌手としても活動していたこともあり、本作は久々のスティールギター・インスト作との由。「ハワイアン」が覇権を有した40年代〜50年代の空気を懐かしみながらも、リラックスムードに溢れた気概あるイージーリスニング作という印象(まったく印象に残らないおからこそ、ELMとして素晴らしい)。この匿名的なジャケ、匿名的なタイトル、それらすべてが当時のキングレコードによる牧歌的マーケティングを物語る、要するに中高年向けノスタルジーにまみれた作品なのだけど、こういういかにも<聴きどころのない>ものに無理矢理にでも価値を見出すというのは、甘いユートピア幻想を惹起しながらも非常なディストピアを招致する2010年代末期的ペシミズムが己の中にあるんだろうなー、思う。こういう俗流ハワイアンとアポカリプス的世界観の親和性ってすごくあるよなー…そういうの既に誰かやっていた気がするけど、誰だったけ??と反復&思案していたら今気づいたけど、VIDEOTAPEMUSICですね。

6.

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アーティスト:Don Paris * Ilona Selke
タイトル:The Best of Mind Journey Music 1 & 2
発売年:1993年
レーベル:Living From Vison
入手場所:ブックオフ新宿西口店
購入価格:100円
寸評:これぞガチ実用系ニューエイジ。Don Paris(一瞬、あのイノセンス・ミッションのDon PerisがこんなCDを出していたなんて!と思ったのですが、全くの別人でした)と、Ilona Selkeというヒーラーコンビがカセットでリリースしていた実用メディテーション音源からベストテイク(誰の基準??)を選出したCD。Discogsにも載っていない、ベリー・ディープ(逆に言えばめちゃくちゃに俗的)なCDです。こういうリアルにヒーリング・セミナーの現場で使用されていたであろう音楽がなぜ今極東の国のブックオフで売られているのを考えるのは非常に興味をそそる問題です。おそらくですが…やはりこれも独自の流通ルートを持っていたと考えるのが妥当じゃないでしょうか。日本にフォーマットとして輸入された癒し系自己啓発の現場で使われ、生徒が教材として半強制的に買わされたのかもしれない…とかとか…当時の状況は想像するしかないのですが、内容的には同時期の日本俗流アンビエントにそのまんま通じるようなチージーニューエイジで、実に倒錯的な好感を抱きます。シンセのドローンとアルペジオが適当に寄せては返し寄せては返し、そこにロッキッシュなソリッド楽器が参画。初期vaporwave作品が参照したチージーニューエイジ・テイストというのは、こういったものだったのかな。

 

7.

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アーティスト:SHADOWFAX
タイトル:THE DREAMS OF CHILDREN
発売年:1986年、オリジナル1984
レーベル:国内盤レーベル Canyon Records、オリジナル Windham Hill Records
入手場所:ブックオフ新宿西口店
購入価格:100円
寸評:またしてもニューエイジで恐れ入ります。しかも名門Windam Hill作品。Windam Hillといえば、世界中を巻き込んで(特に日本を巻き込んで)旋風を呼び、オーナーのウィリアム・アッカーマンはじめ、ジョージ・ウィンストンなどによる大ヒット作を多く抱える名門ですが、これまで、その市況的価値におけるバカにされぶりも相当なものでした。すくなくともこの数年前までは。しかしながら、ニューエイジリバイバルやらネオ・クラシカルの興隆でその真価が再発見されると(それはまだ途上としか言えないけれど…)、ようやっと批評的言語で語られるようになりはじめたと感じます。今までは主に日本人ユニットである<インテリア>にばかりその言説が集中しているきらいがありましたが、カタログ中でも、ようやっと非アコースティックな作品に正当な陽の目が当たり始めている気がします。その中でも、このシャドウファックスは、親しみやすいポップ性などからして、今にも再評価されそうな予感がありますね…。構築的バンドサウンドと闊達なシンセサイザーの合流。そして電子リード楽器の実に<時代がかった>味わい。この3rdアルバムでは、特にM2が素晴らしい。私の2018年ベスト作の一枚、Arp『Zebra』に通じるチェンバー・ニューエイジ。他にも両曲沢山あり。ちなみにジャケット絵は『南回帰線』『北回帰線』のヘンリー・ミラーによるものらしい。

 

第三回に続きます…。