CDさん太郎 VOL.6 2019/2/23、25 購入盤

こんばんは。本記事は、<次のレアグルーヴはCDから来る>を標語とする(?)、CD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第六回目になります。今回は2019年2月23日と25日に東京・吉祥寺、高円寺で購入したCDを計10枚紹介します。
2/25の分は、同夜に円盤で開催された「LDを見る会」というイベントを見るために少し早めに高円寺へ行った際に買ったものなのですが、その「LDを見る会」がもう最高に面白かった。ハードオフのジャンクコーナーで100円で投げ売られている、環境映像に俗流アンビエント的音楽が付いたLDだとか、オーディオ/ヴィデオ・チェック用の試験LDだったりとか、初期コンピューター・グラフィックス作品のオムニバス盤など、そういったものを集中的に鑑賞する会。すごく刺激を受けました。この会のことはまたどこかに書きたいなと思っています。
またこの間、本「CDさん太郎」と相互補完的な概観を論じるコラム「ポスト・ミュージック考」というものがele-king web上で始まりました。よろしければ是非そちらも御覧ください。

www.ele-king.net

本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第一回目のエントリをご参照ください。 

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:武部行正
タイトル:ゆふすげびとのうた
発売年:1998年(オリジナル1972年)
レーベル:P-VINE (オリジナル ビクター SFシリーズ)
購入日:2019/2/23
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:880円
寸評:Pヴァイン社在籍中、仕事の為もあって、これがラインナップされていた「ニューロックの夜明け」という再発シリーズの作品を集中的に聴いたことがあったのですが、その中でも特に思い入れある作品。自分の手元には持っていなかったので、数年後越しにこの度購入。その「ニューロックの夜明け」での初再発以降、初期日本語ロックの決定的名盤として語られているので、僕が今ここで付け足すことも無いようにも思いますが、久々に耳にして、改めて素晴らしい内容だなと感じ入った次第です。この武部行正、まったくもって謎めいたシンガー・ソングライターで、元々は有山じゅんじと「ぼく」というナイーブな名前のフォーク・デュオを組んでいた人(音源は残っていない)。五つの赤い風船の西岡たかしの推薦によって、ビクター内で先進的なロック〜フォーク路線の作品を扱っていた「SFシリーズ」からアルバムデビューをすることになりました。昨今いわゆる「はっぴんえんど史観」がその勢力を増しすぎているせいで、『風街ろまん』が若者文化全体に即大きな影響を与えたような言説が見受けられますが、実際はまったくそんなことはなく、ごく小規模なシーン内での話でした。そんな中これはそうした同時代において極めて珍しい、はっぴんえんどからの直接的影響をきくことのできる稀有な盤なのであります。もちろん、音楽的にどこがどう似ている、という次元よりも、その英米ロックやポップスの消化方法に近似性がある、ということなのですが。歌唱についていえば早川義夫や高橋照之などの系譜を感じさせるもので、今の感覚からするとぜんぜんはっぴんえんどじゃないじゃないか、と言われるかもしれないのですが。しかしそれこそがこの作品の大きなチャームでもあります。そして、柳田ヒロが中心となったバッキング演奏の過不足なさ、しおらしさ。ニール・ヤングにおけるストレイ・ゲイダーズのような、イアン・マシューズにおけるサザン・コンフォートのような、もっとマニアックにいえば、ロビン・スコットのフォーク期作品におけるマイティ・ベイビーのような、というべきか。最高です。それと、付属のライナー(by田口史人)の面白さ。謎の人物を追う田口さんの足跡とその筆致は、ほとんどアラン・ローマックス。オリジナルLPは10万円ほどします。幻のセカンドがあるらしいが、まだ世に出ていず。

 

2.

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アーティスト:Hideki Masago+Masami Endo+Takuya Mori
タイトル:Chaco Journey
発売年:1995年
レーベル:AWA Records
購入日:2019/2/23
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:280円
寸評:AWAレコードは、各種ネイティブ・フルート奏者・真砂秀朗のソロアルバムやプロデュース作を中心にリリースしていたインディー系のワールド・ミュージック〜ニューエイジ系レーベル。近年の和モノニューエイジ再評価シーンを下支えするリスナー文化の中でも特にコアな独自路線を突き進むブログ「FOND/SOUND」でもそのAWAの作品が何点か取り上げれれていますが、なるほど確かに、これは今聴くべき内容かもしれません。この作品は、その真砂秀朗氏を中心として、ギタリストの遠藤昌美氏、サウンド・エンジニアの森卓也氏、ボーカルの藤本容子氏(鼓童のメンバーでもある)が集結して作られたアルバム。ライナーノーツのスピリチュアル抽象度が高くてよく読み取れないのですが、おそらくニューメキシコ州にあるチャコ・ユニオンというネイティブ・アメリカンの聖地でのフィールド・レコーディングに加えて、ネイティブ・フルート、カリンバ、各種民族パーカッション、ギター、シンセサイザーを交え制作された音楽、ということのようです。内容はと言うと、相当に良質で、民族音楽ニューエイジの接合というよくある例の中でも上位にくる盤ではないかと思います。カリンバやパーカッションのシーケンシャルな配置、そして奥ゆかしいシンセサイザーなど、ややクラビーな聴き心地もあり、ダウンテンポものの良作としても評価可能かと思います。

 

3.

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アーティスト:喨及
タイトル:ピュアランド
発売年:1993年
レーベル:グリーン・エナジー
購入日:2019/2/23
入手場所:ブックオフ吉祥寺店
購入価格:500円
寸評:浄土宗和田寺の僧侶遠藤喨及氏は、指圧師、著述家という多面的な才能の持ち主(氏の書きおろした指圧術についての新書を書店で見かけた記憶があります)。音楽家としてもなかなかのキャリアの持ち主で、90年代後半〜ゼロ年代初頭にかけてMIDIから数枚アルバムをリリースするなど、確かな実績をお持ちの方なのですが、1993年、俗流アンビエントのESPともいうべき<グリーン・エナジー>から作品を発表しているとはこれを買うまで知りませんでした。<グリーン・エナジー>といえば、著名(?)オカルティスト、ヘンリー川原氏監修によるミュージックドラッグ系作品や媚薬効果をねらった俗流アンビエントボイジャー1号&2号から発信される宇宙の電波信号を音声化した「スペース・サウンド・シリーズ」(知的財産権処理などの問題で一枚8,000円という超高額盤もあった。誰が買ったんだろう?)など、わりとキワキワな路線なのですが、こういう正統派なニューエイジ作品もあるとは。内容はというと、かなり安心して聴けるギター・ニューエイジで、クオリティも高い。もちろんシンセサイザーも登場、時折琴なども交えながら、奥ゆかしい東方ニューエイジ世界が描かれます。かといってあまり仏教仏教しているわけではなく、その美麗さはむしろウィンダム・ヒル系作品を想起させます。

 

4.

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アーティスト:dip in the pool
タイトル:Wonder8
発売年:1997年
レーベル:Geandisc
購入日:2019/2/25
入手場所:ドラマ高円寺店
購入価格:680円
寸評:2016年にオランダのMusic from Memoryから「On Retinae」が12inchリイシューされたことをきっかけとして、今や世界中に名が知れ渡ったdip in the pool。同曲が収録された『Retinae』(89年)や、昨年LPリイシューされた『Aurorae』(91年)、メンバーたる甲田益也子のソロ・アルバム『Jupiter』(98年)に注目が集まる中、ユニットとしてのキャリア後期作にはあまり光が当たることは少ない気がします。この8作目のアルバムは、メンバーの木村達司が今はなきジャズレーベル、<イーストワークス>内に立ち上げた<Grandisc>からリリースされたもの。このあと彼らは約14年の沈黙に入ることになるわけですが、一聴する限りそのような気配は感じさせない内容になっていると思います。が、現在の視点からいうと、やはり前述の作品群に注目が集中するのもむべなるかな、というか、ちょっと過プロダクションかなあという印象。シンセウェイブ〜アンビエント的感覚は乏しく、むしろかなりダンス・オリエンテッド(しかもあの時代の…)。かつ、本来時系列的な順序は逆ですが、渋谷系の諸々から触発されたようなところも見え隠れしているように思います。このあたりに若干の煮え切らなさが…。もう少し寝かせる時間が必用なのかもしれません。90年代後半というのは、今まさにディグの鬼門です。

 

5.

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アーティスト:Coen Bais
タイトル:Sweet Dreams
発売年:1989年
レーベル:Geandisc
購入日:2019/2/25
入手場所:ドラマ高円寺店
購入価格:108円
寸評:Coen Baisはオランダのニューエイジ系ピアニスト/シンセシスト。ジャケット情報のみでチャレンジ購入してみたのですが、全編これリチャード・クレイダーマン風のエセ主情的ピアノ曲で、どこからも聴きどころを探しようのない駄盤(2019年基準)でした…。ジャケからして和趣味が交錯するウィアードなものを期待したのですが、まったくそんな気配もない。文化搾取的ジャケット乙、といったところでしょうか。108円が勿体無い音楽でした。

 

6〜10.

アーティスト:ENDOMAX PROJECT
シリーズ・タイトル:BRAIN MEDICAL MUSIC
発売年:1989年
レーベル:ヴァーンメディア
購入日:2019/2/25
入手場所:ドラマ高円寺店
購入価格:各108円
寸評:シリーズもの俗流アンビエント。Vol.1〜5まで一気売りされていたので大人買いしてしまいました(計540円)。今まで色々な店舗を回ってこうした盤を見てきていますが、これは初めて見たシリーズです。アメリカ製家庭薬のパッケージを思わせるジャケット・デザインがかなり可愛く、このCDの魅力の半分以上はそこだという気すらします。アートワーク通り、音楽療法での使用が推奨されているCDのようで、リラックスマンという療法?催眠法?と合わせて服用?するのが効果的?な<ミュージック・メディシン>?ということらしいです。リラックスマンというのは、シンクロ・エナイジャー?というゴーグル(VR体験機のようなヴィジュアル)?の家庭洋普及機のことらしく、世界中に40箇所に開設されたブレイン・マインド・ジムという施設?で推奨?されている療法?らしいです。これは、米のデニス・ゴルケス博士が提唱?するものらしく、脳を鍛えることで人間性?の成長を促進する効果?が期待できるらしいです。という右記情報はライナーノーツ記載からなんとか編んだものなのですが、正直言って全くどういったものなのか正体がつかめません…(案の定ネット上にも情報皆無です)。これらのシリーズCDに収録された音楽は、聴取シーン/効果ごとに区分けされ制作されたもので、日本の川井久徳氏という音楽家の手によるもののようです。他、マミュピレーションやエンジニアリングに数名のスタッフが関わっており、それを総称して<ENDOMAX PROJECT>というチーム名になっているようです。1枚づつ簡単に聴いていきます。

Vol.1『BRAIN DIVING』

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「effect:ENTERTAINMENT 2」と記載のある通り(なぜシリーズ第一作目なのに「2」なのかは不明)、アップリフティングな気分になりたい時に聴くCDとのこと。こういう俗流アンビエントのあるあるで、効果としてそういうアッパーな状態を企図したものは大体音楽内容が良くないというのがあるんですが、これもまさしくその類。フュージョンにもなりきれていない、水温30度くらいの、冷たくもなくヌルくもない、本当に無意味な背景版MOR音楽という類。先日レビューした歯医者さん待合室のための音楽に、ビートを加えたような印象。ただ、シンセサイザーの音色は良く、Vol.2以降に期待が持てる。

Vol.2『SWEET VITALIZER』

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こちらは「effect:RELAX and REVITALIZE 1」ということで。やはりリラックス系ということで、アンビエント色つよく、先のVol.1より格段に良いですね。このシリーズ全体、おそらく上述のエンドマックスとかいう機械?との関連だと思うのですが、BPM20くらいのゆーくりしたキックずーっと入っており、それが偶然音楽的効果をもたらして、単なるペンタトニック・シンセサイザー音楽になりそうになるのをボトムから引き締めています。

Vol.3『SCATTER BRAIN(RECOVERY)』

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こちらの効果は曲ごとに記載されており「Sleep 1」、「PAIN REDu(ママ)CTION 2」、「FUN MEDITATION」。前者2テーマのものは基本上述Vol.2の音楽印象とほぼ変わらず。問題(?)は「FUN MEDITATION」を謳ったM6「2024 SPACE FLIGHT」。曲名からして期待感高まりますが、果たして相当に良いトラックでした。スペーシーな音像、これまで控えめだったシンセサイザーが縦横に活躍。クラウス・シュルツェ的世界をやや和風にした印象。喜多郎にも近いか。21:50もある壮大なトラックです。

Vol.4『PESSIMISTIC BRAIN(RECOVERY)』

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こちらの効果は「PAIN REDu(ママ)CTION 1」、「MEDITATION」。これだけで既に期待できるわけですが、案の定なかなか上質です。M1、M3はほとんどタンジェリン・ドリームへのオマージュのような。M5はシリーズ中もっとも透明度の高いクリスタルなシンセ音がゆらめくナイスアンビエント。ちょっと小久保隆的でもありますね。M6は謎にジャジーハモンドオルガンとポストパンク的な硬質打ち込みサウンドの融合がなかなかカッコいい。坂本龍一『B2ユニット』を背景音楽向けにめちゃくちゃ希釈したような世界ですが、なんと42分超えの超大作。おそらくこの川井さんという方、自由に音楽を作ったらかなりアイデアとセンスに溢れる人なのではないかな、と予想します。(氏の名前をネットで検索しても同名の江戸時代の和算家の情報しか出てきませんでした)

Vol.5『BRAIN FLIGHT』

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 こちらの効果は「SLEEP 2」と「RELAX and REVITALIZE 2」との由。相変わらずBPM20ほどの非常にゆったりしたキックが全編に鳴っているわけですが、M1はその上にインダストリアルなメタル・パーカッション音や、程よくトーンコントロールされた手弾きデジタル・シンセサイザーのプレイが乗る楽曲で、おそらく本シリーズ中もっとも充実したトラックかもしれません。M2、M3は若干感傷に浸り気味のフレーズがゆっくりと綾を描いていく、正統俗流アンビエント。可もなく不可もなくですね。まさかの8ビートが主導する終曲M4は、『ソリッド・ステート・サヴァイヴァー』期のYMOを極限まで希釈したような世界。なんでこう、ちょっと前の音楽を真似する感じになるんでしょうか。それが好ましさでもあるのですが。

 

次回へ続く…。