CDさん太郎 VOL.9 2019/3/14、15、17 購入盤

こんばんは。本記事は、<次のレアグルーヴはCDから来る>を標語とする(?)、CD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第9回目になります。今回は2019年3月14日、15日、17日に、それぞれ東京・秋葉原、新宿、吉祥寺〜高田馬場荻窪で購入したCDを計8枚紹介します。

このところなんだかちょっと忙しかったので、購入にまつわることで「CDを買ったなあ」ということ以外の精神的トピックが無いので特に前置きはありません。そういうときこそ「CDを買ったなあ」ということ自体の感触がそれ自らとしてだけで鮮やかに蘇ってきたりして、へんに快くもありますね。だからCDを買います。

本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:ファンキーフォックス
タイトル:フューチャーフォックス
発売年:1993年
レーベル:ファンハウス
入手場所:ブックオフ 秋葉原
購入価格:280
寸評:加曽根康之と川野憲一による、中学生が考えたような素晴らしい名称のキーボードユニットが93年にリリースしたセカンド作。「キーボード」といいましたが、この時代に頻出したヤマハプロデュースによるエレクトーンデモンストレーション的作品となっています。この二人個々人についてはネットにあたっても全然情報が出てこず…もしかすると半プロのインストラクターの方々とかだったのでしょうか。音楽内容はというと、デモンストレーションものの常套たるテクニカルな鍵盤さばきをプレゼンするようなスポーツフュージョンが主たる感じなのですが、CDジャーナルの作品ページでも言及されているように、かなりTMNに影響を受けた感じがありますね。エレクトーンものの大傑作、三原善隆『ナイトライダー』的なライトメロウmeetsニューエイジな世界を求めると若干肩透かしを食いますが、ちょっとアシッドジャズ的なM2、スーパーマーケットファンクなM5など、面白い。たぶん一番の聴きものはM6ビートルズ「アンド・アイ・ラブ・ハー」、M7ストーンズ「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」のカヴァーでしょうか。これらは散開前のYMOぽさもあるシンセポップでかなり良いです。しかしこの時代にこの音楽性というのは逆にすごいというか、反動的と言うか…。2019年ぽさにいい感じで接触する結果となっています。トレンディなジャケも◎。

 

2.

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アーティスト:中村幸代
タイトル:目の前のにんじん
発売年:1990年
レーベル:PONY CANYON
入手場所:ブックオフ 秋葉原
購入価格:280円
寸評:上記ファンキーフォックスと同じくヤマハによるプロデュース作品。この中村幸代の作品、一つ前のファーストアルバムがそれこそライトメロウmeetsニューエイジなテイストで素晴らしく、他作品も是非買わねばと思っていたところでした。へんなタイトル(こういうセンス、当時の少女漫画カルチャーぽさを感じて好き)に少しだけ躊躇してしまいましたが、ジャケのノーマン・シーフ調ファジーネスに惹かれて購入。ファーストはニューエイジ調の奥行きがあったので、それに準じる作風なのかなと予想していたのですが、いきなりM1からハイエナジーなエレクトロサウンドが展開されて喫驚です。このあたり、編曲を担当している羽田一郎のカラーが濃厚に反映されている感じがします。とはいえども、もはや最近の鍛錬によって、こういうアレンジ傾向もわたしのリスニング感覚の中で全然アリになっているので、かなり楽しく聴いてしまうのでした。ハイエナジー調にプラスして、ちょっとニュージャックぽさ、あるいはファインヤングカニバルズ的な俗UKソウル感もあります。ブックレット内に完全に楽屋落ちの意味不明なフォト漫画みたいなのが掲載されていて、実に時代を感じます。

 

3.

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アーティスト:宮下富実夫
タイトル:天河/五十鈴編
発売年:1986年
レーベル:ポリドール
入手場所:ブックオフ 秋葉原
購入価格:500円
寸評:またしても宮下富実夫によるニューエイジ作です。以前にも紹介したとおり、本当に把握しきれないほどのリリース数を誇る氏ですが、80年代半ばのCDが落ちていることは意外にも稀なので、勇んで購入しました。やはりというべきか、この時期はデジタルシンセサイザー発展期なだけあって、音色上の特性がより今の聴取感覚に近しい気がします。内容としては相変わらずのメディテーショナルなニューエイジ俗流アンビエントなのですが、エレクトロニクスおよびそこから導かれる音がネイキッドなこともあって、より原理的なニューエイジ美学を感じます。珍しく使用楽器が詳細にクレジットされているので、未来のために書き出しておきます。CASIO CZ-5000、CZ-1000、CZ-101、JUNO-60、SH-2、PROPHET-600PRO、JX-3P、PG-200、PC-8801mk2、MPU-401、SIX-TRAK PRO、EX-800、SYSTEM-100M、MC-4、DRUM TRACKS PRO、CHOROMA Pokarlsとのことです。圧巻。

 

4.

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アーティスト:ジェノビア・ジーター
タイトル:ジェノビア
発売年:2001年(オリジナル 1986年)
レーベル:BMGファンハウス(オリジナル RCA Victor)
入手場所:ブックオフ 秋葉原
購入価格:280円
寸評:いわゆる「ブラコン」とされている音楽、これだけシティポップ〜ライトメロウ的なものが復権している中にあって、いまいち総体的な再評価からこぼれ落ちているような気がしているのは僕だけでしょうか。このジェノビア・ジーターの盤は数年前に(鬼のようにブギー〜ブラコンものをリイシューしていた)Funnkytown groovesからも出ていましたが、日本のBGMからも出ていたとは知らなかったです。この作品のクオリティの高さは『U.S.ブラック・ディスク・ガイド』での褒め方などを通して想像していたのですが、今回安価でめぐりあいようやっと購入。果たして、最高ですね…これは。あまりここで僕がどうのこうのいってもしょうがないような気がしますが、あえて言うことを探すなら、もしシティ・ポップへの再評価などを通じてスムースグルーヴミュージックに対して興味を持つ方々がいらっしゃるようなら、こっちの方面も是非聴いてみてほしいです、ということでしょうか。逆さまな表現なのですが、このように素晴らしいライトメロウ的盤がたくさんあります。

 

5.

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アーティスト:津島利章
タイトル:仁義なき戦い サウンドトラックコレクション
発売年:1995年(オリジナル劇伴 1973〜1979年)
レーベル:VAP(原盤 東映)
入手場所:ユニオンレコード新宿
購入価格:580円
寸評:『仁義なき戦い』シリーズは、その映画自体の絶えない高人気も反映して、各規格とも中古盤市場で堅調値付けを保ってきたのですが、昨年、現存する全てのシリーズ劇伴を収録した3Wの決定盤CDセットがリリースされたこともあって、今回購入したような旧規格盤が安価で市場に出回るようになってきました。映画シリーズ自体を愛していることは無論なのですが、あのスコアを単体で味わいたいという欲求は映画を観たものなら誰しも持つはずで、いつか手に入れたいと思っていたのでした。そこへさして今回旧規格盤が安価で店頭にあったもので、購入。津島利章は古くから深作欣二映画の音楽を担当しながらも、様々な東映映画の劇伴を務めてきた人。ラロ・シフリン的スリラーBGMと日本土着のスペクタクル性が融合した唯一無二の作風だと思います。同時期の<東映ファンク>みたいに言われるものがある種のプロイテーションムービー的軽薄性を感じさせるところへ、津島氏の音楽はなんともいいがたい独特の湿性溢れる重厚さを醸しているのでした。時にちょっとドリリュー風ですらあって、エスプリもあります。その一方この『ジンタタ』のテーマに象徴的なように、ほとんどデュアン・エディかよ、というガレージーなギターサウンドを混ぜてきたりと、実にスポンテニアス。カッコいいですね。

 

6.

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アーティスト:ピロレーター/シャーロック/サンバ
タイトル:エヴリー・セカンド
発売年:1989年
レーベル:WAVE(原盤 Ata tak)
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:680円
寸評:Ata Takのファウンダーにしてノイエ・ドイチュ・ヴェレの立役者、元デア・プランのピロレーターことクルト・ダールケが、89年にヤー・ヤー・ヤーのフランク・サンバと米ジャズシンガー、リンダ・シャーロック(ソニー・シャーロックの妻)と組んでリリースした疑似ディスコ作。この作品を買った日、仕事でピロレーターのことをあるアーティストから話を聴くということがあり、しかも執筆中の某作ライナーにおいてリンダ・シャーロックのことを調べている中で入手した作品で、妙なシンクロニシティを感じたりしました。内容はといえば、かなり上質のエレクトロファンク〜フェイクディスコなのですが、稀代の諧謔師ピロレーターがこれをやっているというのが面白いですねえ。ライナーによると1988年にドイツの文化機関がソウルオリンピック開催に際して「クンストディスコ=アートディスコ」というコンセプトでピロレーターに制作委託したものらしく?、そのとおり理知と諧謔の入り混じったダンスミュージックとなっております。聴き心地的には<普通の音楽>に聴こえないこともないのですが、濃密な空虚感が漂っており、そのあたりが何より面白い。これはDJでかけたいやつですね。

 

7.

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アーティスト:本條秀太郎
タイトル:散華
発売年:1990年
レーベル:日本クラウン
入手場所:ディスクユニオン高田馬場
購入価格:100円
寸評:これぞ今回の目玉盤。ジャケに映る本條秀太郎氏、一見反社会勢力に見えますが、 60年代前半から活動する日本の民謡・端唄・俚奏楽三味線の著名演奏者です。この時代に頻出した日本伝統楽器とニューエイジの融合となる一作で、多分にもれずシンセサイザーなどを大胆導入した内容なのですが、そのバランス感覚が実に秀逸で、細野晴臣&中沢新一のコラボ期のサントラともいうべき汎ジパング的なスピリチュアルミュージックとなっています。氏の三味演奏の闊達ぶりはもちろんのこと、尺八、笛、太鼓、そしてコンシャスなコーラス(というか詠唱、ときに般若心経)やシンセサイザーが交わり乱れ、もはやこのレベルになると海外からのリバイバルも難しいだろうなと思わせる抹香系和ニューエイジとなっていますね。シンセサイザー演奏は「kazuba masao」とクレジットがありますが、どなたでしょうか。出色はM3「阿修羅」。ドラマチックなニューエイジ曲で、ピーター・バウマン主宰の「プライベート・ミュージック」などに親しいニューエイジ感を感得しました。細野さんもライナーにスピリチュアルな文章を寄せており、面白いです。

 

8.

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アーティスト:モーガン・フィッシャー
タイトル:re・lax
発売年:1992
レーベル:プレムプロモーション
入手場所:ブックオフ荻窪
購入価格:280円
寸評:exモット・ザ・フープルの鍵盤奏者モーガン・フィッシャーは、それまでのグラムロック〜アヴァン路線を経て、1985年に日本へ移住、以降はヒーリング音楽〜環境音楽系のフィールドで活躍しています。わたしは「俗流アンビエント」みたいなものにハマる以前から氏の音楽を好んでおり、幾作かCDを持っているのですが、この度久々にヒーリング期のCDを買ってみました。こうやって改めてきくと、相当に日本的な俗流アンビエントになっており、妙に感心してしまった次第です。なによりそのメロディー感覚。おそらく俗流アンビエントの名門たるプレムプロモーションからのディレクションもあってそうなっているのかもしれないのですが、もはや完全に日式ヒーリング音楽。暖かな手弾きシンセサイザーの音色、ペンタトニック調メロディー、歌謡的緩急を孕んだタッチ…。いや、かなりいいです。むしろ俗流アンビエントの美点が純粋に息づいている感すらします。ちなみにモーガン・フィッシャー氏、吉祥寺の中華料理屋「中華街」で食事をしているところに遭遇したことがあります。

 

次回へ続く…