CDさん太郎 VOL.16 2019/5/2、7購入盤

 こんにちは。本記事はCD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」の第16回目になります。今回は2019年5/2、東京・池袋と吉祥寺で、7日に神奈川・向ヶ丘遊園で購入したCDを計11枚紹介します。

 今回は前置きなくソリッドに行きます。
 本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。 

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

1.

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アーティスト:ナジャ
タイトル:チイホチョホイ
発売年:1989年
レーベル:ポリスター
入手場所:ディスクユニオン池袋店
購入価格:380円
寸評:88年に『Nadja First』でデビューした女性シンガー、ナジャによるセカンド・アルバムです。トータルプロデュースを牧村憲一と美濃部忠裕が担当し、「月」、「日」、「星」とコンセント分けしたそれぞれの楽曲を、清水靖晃、スライ・アンド・ロビー、井上鑑らが入り乱れてアレンジする本盤、その存在は以前から知っていたのですが、この度非常な安価で発見し、購入。本作が今再び注目を集めているのは、なんといっても清水靖晃の参加によるところが大きいでしょう。同じ頃の清水氏といえばエスノ色強いワールドミュージックに接近していた時期なので、このアルバムにおける担当曲でもそういった音楽傾向を強く反映したものになっています。このあたり、anoutaさんが提唱されている新概念「トレンディ・エスノ」にも強くリンクする(実際にブログでも取り上げれています)、当時の日本におけるワールドミュージックキッチュな受容感覚が鮮やかに表出したものと理解することが出来るでしょう(要は、中村とうようが怒り出しそうなワールドミュージックです。)。ジャケットはエキゾ・ラウンジ風ですが、実際はもっとコンテンポラリーな質感を湛えています。井上鑑のアレンジ曲も相当に素晴らしく、氏のファンク・サイドがクールに顕現。スラロビによる非レゲエ曲も謎にキャッチーで、彼らにこれをあえて割り振ったのだろうなという不思議なミス・マッチ感が素敵。後藤浩明アレンジ曲では牧村コネクションで小沢健二も作詞に参加するなど、実に味わいどころの多い名盤だと思います。ブックレットも敢えて綴じ込みにせず豪奢なビジュアルの見開きペラを曲ごとにバラで封入するなど相当に凝っており、まさにあの時代ならではの「都会の大人」の粋。これ、LP化したら相当売れると思いますね。ちなみにナジャさん、現在は「日向さやか」の名でワールドミュージック系DJとして活動されています。


2.

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アーティスト:近藤名奈
タイトル:7/360
発売年:1993年
レーベル:ファンハウス
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:100円
寸評:一般にいうガールポップについては今のところなんとなくハマれなさを感じており、シティポップ風味が強めなものを買う程度なのでした(実際には、シティ・ポップを期待して買ったらガールポップだった…ということが多いのですが。このところあまりその轍を踏むことは少なくなりましたが)。この近藤名奈のファースト・アルバムもこれまでCDショップで度々見かけていたのですが、そのたびにスルーしておりました。が、まあ100円ならいいかということで購入。ショートカットの似合う元気いっぱいなボーイッシュガールという、ジャケット等から発散するイメージ通りの楽曲たちがたくさん詰め込まれています。演奏陣が青山純鳥山雄司土方隆行、長岡道夫など「おっ」っという感じなのですが、まあ、そつのないフツーの演奏…。シティポップに分類可能なものを探すのはかなり困難なのですが、リズムパターンに「ナイト・イン・ニューヨーク」をかすかに感じさせるM1、隙間を活かしたミニマルなアレンジが(ガールポップ系では)珍しいM2の冒頭2曲はかすかにそれっぽい雰囲気を匂わしています。まあ、そもそもそういう聴き方をする作品では無いかなとも思いますが…。


3.

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アーティスト:和田加奈子
タイトル:VOCU
発売年:1988年
レーベル:EASTWORLD(東芝EMI)
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:580円
寸評:和田加奈子もまた一般的にはガールポップとくくられることもあるかと思いますが、上述したような、シティポップ寄りの方という認識があります。アニメ『きまぐれオレンジロード』での「夏のミラージュ」等で知られる歌い手さんですが、ライトメロウオタクのあいだでも『KANA』や『DESSERTに星くずのゼリーを』などでとみに評価が高い方でもあります。その魅力はなんといっても、少しキー低めのアダルティーな歌声にあるかと思いますが、キャリアを通して全般的に楽曲とアレンジが優れていることも大きいでしょう。この作品はその中からするとあまり言及されることの少ないかなという印象もあります。大半のアレンジを手掛けているのが白井良明氏なのですが、氏のロック志向が素直に反映されているため、ライトメロウ的感覚とは少しずれるのかな、と思います。ですが、各曲単位だとドゥービー・ブラザーズ「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」歌謡のM2、カイリー・ミノーグ「「I SHOULD BE SO LUCKY」の日本語カバー(PWLっぽい)などは面白いですし、謎にエキゾチックなM7(そう聴くとムーンライダーズ感もあるような)も好ましいです。

 

4.

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アーティスト:Selfish
タイトル:Dig it!
発売年:1994年
レーベル:SELFISH
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:100円
寸評:以前の「CDさん太郎」でもファーストアルバムを紹介したSELFISHによる、1994年リリースの2nd作。前作もなかなか本格的なブラックミュージックフィールを感じさせるものでしたが、US録音となったこちらでは更にパワーアップ。ソウル〜ブラックコンテンポラリーというよりは同時代的なR&Bサウンドを吸収したものといった印象です。するとやはりニュージャックスウィングっぽさが出てきたりするのですが、好き嫌いの分かれ道はそのあたりか。今なら全然ありという気がします。とあるところでハタさんが彼らのことを「黒いシング・ライク・トーキング」と呼称していましたが、実に言い得て妙ですね。演奏は自分たちに加え、ジノ・ヴァネリとの仕事で著名なカルロス・リオス、ビル・マイヤーズ(二人は編曲にも参加)といった現地ミュージシャン、鳥山雄司、百石元などを招いています。

 

5.

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アーティスト:横山輝一
タイトル:VOICE
発売年:1988年
レーベル:ファンハウス
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:280円
寸評:前年の87年にソロデビューした横山輝一が翌88年に発表した、名盤との誉れ高いセカンドアルバム。ヒットを経ての後のポリスター時代のCDは店頭でよく見かけるのですが、あまりこの時代のものは見かけないような気がしています(LPでも同様)。久保田利伸を始めとした和製ブラコンが盛り上がりを魅せた80年代終盤の空気を反映するように、全編にわたりそういった傾向のアレンジを聴けるアルバムとなっています。やや個性に薄いボーカルスタイルもあいまって、あまり「ソウルフル」という感触は受けず、どちらかといえばライトメロウ的なスムースネスが前景化する形となっています。その意味で、同時期も角松敏生にも通じる魅力を嗅ぎ取ることも可能かなと思います。曲単位だと、もろブラコンテイストなM2、M4、M8、メロウなスウェイビート曲M6あたりが良いです。


6.

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アーティスト:SHOGUN
タイトル:探偵物語 ミュージックファイル
発売年:1992年(オリジナル録音 1979円)
レーベル:VAP
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
購入価格:380円
寸評:今現在まで含め、我が邦のTV番組サウンドトラックのリイシュー企画において、VAPが90年代初頭から送り出したシリーズ『ミュージックファイル』に匹敵する規模/質のものは未だ現れていないと断言します。リサーチャー/アーカイヴィストとして本シリーズのディレクションを行った高島幹雄氏の仕事は、日本音楽文化にとって燦然と輝くものだと言えます。さて、この『探偵物語』のサウンドトラック盤は、松田優作への継続的な人気はもちろん、あの有名なテーマ曲「バッド・シティ」の高い認知度もあり、同シリーズの中でもとくに好評だったようです。当時、ドラマの成功を受けてSHOGUNが「バッド・シティ」を再録音した名盤『ローテーション』をリリースしたこともあり、世代を超えたスタンダードとなりました。そう、実はドラマで使用されているバージョンは手に入りやすい『ローテーション収録版とは違うものなのです。ということで、まずこの盤の価値はそれが聴けるということにあります。また、これが音盤としては初出となる他スコアがまとめて聴けるというのも大きな魅力でしょう。現在の感覚からいうと、正直「バッド・シティ」よりそれらの方が面白いですね。ドラマの劇調も含めてあきらかに強く意識されていたであろうブラックスプロイテーション映画、特に探偵モノたる『シャフト』(音楽:アイザック・ヘイズ)からの影響は濃厚で、非常にカッコいいですね。まさに劇伴のスタンダード。

 

7.

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アーティスト:ピンク・クラウド
タイトル:KUTKLOUD
発売年:1988年(オリジナル:1982年)
レーベル:VAP
入手場所:BOOK OFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:108円
寸評:ジョニー・ルイス&チャーからピンククラウドへ改名してからのアルバム。チャーはもちろん、ジョニー吉長のソロ作にもシティポップ的に素晴らしいものがあるのは知られていますが、じゃあ彼らバンドの作品はどうなのかなというと、セッションプロジェクトというイメージが強いこともあり、一般的には「まあロックすよね?」と見做されているかなと思います。正直これまで私もそういった認識でいたのですが、あの『Light Mellow 和モノスペシャル』に本盤が載っているではありませんか。爾来、「安く見つけたら買おってみよう」と思っていたところに、激安値で遭遇という物語。ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスやジェフ・ベック・グループを下敷きにしているだろうロック的な曲はここでは置くとして(それはそれでとても良いんですが)、シティポップ的に「アリ」な曲を拾うとしましょう。まず、M5。ファルセット使いの極上のミニマルメロウソウル。素晴らしい…。シュギー・オーティス味のあるチルアウトメロウM6、素晴らしい…。まさかのダバダバ系ブラジリアングルーヴM7、ほぼ完璧と言っていいシャキシャキ感満天のミニマルシティポップ小品M8。素晴らしい…。生音志向&小編成な分、メロウな曲を演奏するとソロ独立後の坂本慎太郎氏にも近いミニマリズムが偶然生まれてしまっているというか…。聴かず嫌いは損ですね。

 

8.

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アーティスト:風コーラス団
タイトル:愛色の季節
発売年:2003年(オリジナル:1975年)
レーベル:キング
入手場所:BOOKOFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:500円
寸評:ティン・パン・アレイ関連の中でもあまり知られていないと思われる、風コーラス団による1975年作。以前からLPで欲しかった盤なのですが、結構な金額を出さないとゲットできないなということもあり、躊躇し続け…そんな中、めちゃくちゃお買い得な価格でCDを発見。後の2013年にライブ録音をもう一曲加えた体裁で再々発盤が出ているのですが、この値段ならこれで十分満足ですね…。風コーラス団はヤマハポプコン関係のボーカル&インストゥルメンタルグループで、その名の通り美しいコーラスワークを聴かせてくれる方々です。そもそもはポプコンへの応募楽曲を演奏するハウスグループだったようです。それがどういった経緯でティン・パン・アレイとともにアルバムを作ることになったのかは謎めいております…。もちろんティン・パンは演奏だけでなく(細野晴臣が)全編に渡りプロデュースとアレンジを務めています。ソフトロックやソウル、各種米ロックを完全消化したアレンジは、本当に流石の一言。同時代の世界的基準でいっても抜群のクオリティかと思います。(おそらくですが)ゾッピーズ・キャメルのマニアックbut鬼名曲「ファゾン」を下敷きにしたのでは無いかと思われる(細野さんに会ったら問うてみたい、忘れていそうだけど…)M1、ショキショキしたギターカッティングが最高に気持ちいいいM5(フリーソウルクラシック感あり)、思い切りリトル・フィートなM7…全編まったくもって素晴らしいです。作曲は細野氏に加え、萩田光雄、吉野金次(作曲!)等。作詞では松本隆も一部参加しています。


9.

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アーティスト:YAS-KAZ
タイトル:SIYABONGA
発売年:1991年
レーベル:PONY CANYON
入手場所:BOOKOFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:500円
寸評:横倉裕に次いでこの『CDさん太郎』での登場頻度が高いかもしれない、ニューエイジ系打楽器奏者のYAS-KAZポニーキャニオン時代の作品はどれを買ってもハズレというものがなく、見かけるたびに買ってしまうのでした。が、これ、買ってから気づいたのですが、当時TBSで放映された『ワトソン博士のアフリカ大博物館』というテレビ番組にテーマ曲として提供したタイトル曲を冒頭に据えたベスト盤でした(帯も付いていたのですが、そんなこと一言も書いてない…おい!)。海外編集の別のベストも持っているし、これまで所持している他のオリジナルアルバムでも聞ける曲が多く…なんだか損した気分…が、一応このベスト盤は上述のテーマ曲に合わせて「アフリカ」というテーマで選曲されており、そのあたりの一貫性は面白いと言えます。全編素晴らしいトライバルニューエイジの応酬なのですが、なんとも釈然としないのでした。

 

10.

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アーティスト:高垣直美
タイトル:ザ・ドラッグ 〜マインド・コントロールサウンド
発売年:1996年
レーベル:Della
入手場所:BOOKOFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:500円
寸評:「俗流アンビエントブルーノート」ことDellaによる、ミュージックドラッグシリーズの一作です。他に「アシッド」「マリファナ」というタイトルがありますが、これはそのものズバリ「ザ・ドラッグ」。潔いですね。他二作は正直あまり音楽的ではないと言うか、インダストリアル感強めの音色がウニョウニョと鳴っているなかでコラージュ的具体音が闖入するという珍品だったのですが、これは最も通常の鑑賞に耐えうる作品かと思います。というか、アンビエントテクノとしてかなり良いと言えます。パッケージ周りにまったくアーティスト情報が(例によって)ないのですが、アマゾンに残る商品ページの痕跡などをたどると、どうやら高垣直美さんというアンビエント作家の方が制作されたもののようです。この高垣さん、今世界的に再評価が巻きおこり中の小久保隆氏の弟子筋に当たる方らしく、この高クオリティにも納得という感じです。全3トラックが収録されているのですが、M1はバックグラウンドにたゆたうシンセに水泡音のような音が回転的にパンニングしながらウニョウニョと乗るという世界。M2は更にアンビエント色強めですが、途中から闖入する揺らぐ低音フレーズにどこかしらシリアスさが漂い、こうしたミュージックドラッグ系がよく参照するタンジェリン・ドリームルビコン』的な世界に近いものを感じさせます。そして、白眉はM3。これはもっとも1996年的同時代性を感じさせます。わかりやすくいえばThe Orb的なアンビエントテクノなのですが、SUN ELECTRIC的な天上感も随所に漂い、相当に面白いです。あえてビートの持続をスネアとクラッシュを混ぜたようなサンプリング音に任せていたり、音色の選択にも非常なセンスを感じます。名盤と言っていいかと思います。


11.

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アーティスト:MICKEY HART, HENRY WOLFF & NANCY HENNINGS
タイトル:YAMANTAKA
発売年:1991年(オリジナル 1983年)
レーベル:Celestial Harmonies
入手場所:BOOKOFF向ヶ丘遊園駅前店
購入価格:500円
寸評:1972年にリリースした『Tibetan Bells』がルーツ・オブ・ニューエイジの名盤として高く評価されているヘンリー・ウルフ&ナンシー・ヘニングス。そのタイトル通り、チベタンベルやシンギングボールなどチベット仏教音楽を演奏するエクスペリメンタルデュオたる彼らに、グレイトフル・デッドのドラマーでこの時期ニューエイジ民族音楽に接近していたミッキー・ハートが加わった作品です。M1はひたすらに深ーい倍音と長ーい残響音が鳴り響く誠にドープな作品で、そんじょそこらのアンビエントを蹴散らす圧倒的瞑想効果があります(最初は不安を掻き立てられるのですが、聴いていると次第に時間の感覚が変質していくような…)。カラカラとしたベルの音が崇高と清涼を同時に運び込むM2も素晴らしいです。オリジナルのLPは各面1曲づつで、M3以降はCDリイシューに際してのボーナストラックとなっています。これもまた本編と同傾向のものが収録されていますが、(おそらくデジタル卓での録音となったためか)異様なハイファイさがあり、またそれにハッとさせられるのでした。「ちょっとリラックスしたいなあ」というノリで聴くとかえってヤバそう…彼岸に持っていかれそうになるというか…。実に素晴らしいです。

 

次回へ続く…。