CDさん太郎 VOL.27 2020年秋 購入盤より抜粋版

こんにちは。大分久々の更新となるCDディグ日誌『CDさん太郎』です。
更新の止まってしまってしたこの間もコツコツとCD購入は続けておりまして(もちろん緊急事態宣言で一時中断はあったにせよ……)、増え続けるそれに対処すべく宅のラックを増設したりと、まあ相変わらずの状態でありました。 

9月には、「DJ PIGEONの知らない音楽」というイベントが渋谷の頭バーで開催され、主催のDJ PIGEONさんはじめ、珍盤亭娯楽師匠さん、数の子ミュージックメイトさん、デラさんという強すぎるメンツとともにDJ出演させてもらうなどもしました。そのイベントがあまりに濃厚で、一時すこし燃え尽き症候群のようになってしまいましたが、最近はまたペースを取り戻し、コツコツとCDを買い集めているのでした。
今回はそんな中からひとつかみ、抜粋的に紹介をしてみようと思います(これが最近のベストディグであるとか、特段の意図はなく、あくまで「ひとつかみ」です)。

 

本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。
(もう去年の2月の話なのか……ここで述べたこともそれなりに共通認識化した(?)ように感じたり、感じなかったり)

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

 

1.

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アーティスト:Shell HELIX
タイトル:Quality Drive Sound What is Shell HELIX?
発売年:不明(1990年代後半〜2000年頃?)
レーベル:昭和シェル石油株式会社
入手場所:ブックオフ駒沢大学
購入価格:290円
寸評:昭和シェル石油株式会社のエンジンオイルシリーズ「Shell HELIX」の販促のために制作されたオリジナルノベルティCDです。カーケア商品を扱う店の店頭などで配布されていたものなのかもしれません。クレジットをみてもどこにも製作年が記載されていませんが、音質などから推察するに1990年代後半から2000年頃にかけて録音されたものではないかなと思います。インターネットを調べてみても、オークション等への出品情報しか出てこず、よくわかりません。音楽性としては、ガットギターを主軸としたアコースティックなジャズ〜ボッサ、という感じで、正道的なイージーリスニングです(アーティスト名義は匿名なので、誰が演奏しているかも不明)。ちょっとカリオカなどと近いでしょうか。予算の都合上だと思いますが、生楽器に加えてリズムが打ち込みされていたり、すこしだけ面白い場面も。もっとも良いトラックは①の「TIME MASCHINE」で、主情的なバイオリンがうざったいですが、カホン(の打ち込み?)なども交えたイージークラブジャズ。本盤はドライブ向けに特化した音楽集ということですが、ネットの出品情報によると夏をテーマにした別作もあるようです。

 


2.

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アーティスト:パチャママ
タイトル:大地母神
発売年:1995年
レーベル:大地母神
入手場所:ブックオフ駒沢大学
購入価格:290円
寸評:1970年にキングレコードから歌手としてデビューし数枚のLP/シングルのリリースもあるオカリナ/シンセサイザーサンポーニャ/コチョーラ担当の野上圭三と、現在はジャズドラマーとしてもローカルに活動する打楽器担当・柿本秀明によるユニット、パチャママのおそらく唯一作。パチャママというのはケチュア語アイマラ語で「母なる大地」を意味する語だそうで、アルバムタイトルもそこからきているようです。野上氏は中南米ギリシャ、エジプト、中近東を放浪し民族音楽を学んだ経験があるそうで、その嗜好が濃密に反映された純ニューエイジ作です。とはいえメロディーやハーモニーの感覚は逃れ難く「和」で、そのあたりからし菩提樹など和ニューエイジのレジェンド達にも近い印象。しかしながら、自主制作らしい荒削りさも随所にあり、とくにシンセの音が録りっぱなしというか、鳴らしっぱなしな野放図さがあって面白いです。全編にわたって歌謡集が漂う中、③「トゥリシュール」のドープさが際立っており、きわめてシンプルなドローンにふわふわと上モノが乗るアンビエント性の高い曲。後半になると各種打楽器も交わり、なかなか面白い。⑨の「エピローグ」もミニマルなシンセがゆっくり反復するだけの曲で好ましく聴けます。

 

 

3.

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アーティスト:夏絵菜
タイトル:She loves summer 夏物語
発売年:1992年
レーベル:エイベックス
入手場所:ブックオフ駒沢大学
購入価格:510円
寸評:『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』掲載盤。本『CDさん太郎』Vol.23で取り上げたMAYUMIと同じく、当時いまだ海の物とも山の物ともつかぬ存在だった初期エイベックスが送り出した邦楽カヴァーもの。夏絵菜が何者なのかは不明で、そのへんでスカウトした新人さんということなのだと思いますが、歌唱力も中の上といった感じ。ここで注目すべきはそのトラックで、コンセプトに夏を掲げている通り、全編ラヴァーズロック風でまとめられています。取り上げる曲は「SUMMER CANDLES 」(杏里)、世界でいちばん熱い夏 (Princess Princess)、「真夏の果実」 (Southern All Stars)、「夏のクラクション」(稲垣潤一)、「八月の恋」(森高千里)、「ガラス越しに消えた夏」(鈴木雅之)、「ミスター・サマータイム」(サーカス)、「湘南MY LOVE」(TUBE)「君のハートはマリンブルー」(杉山清貴オメガトライブ)「STILL I'M LOVE WITH YOU」(角松敏生)。シティポップ的重要曲も多いので、それなりに楽しんで聴けますが、いかんせんぬるい……。クレジット記載がないため全打ち込みのオケは誰が作っているのか不明。

 

4.

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アーティスト:佐々木幸男
タイトル:Jealousy
発売年:1990年
レーベル:ワーナー・パイオニア
入手場所:高円寺BE-IN RECORDS
購入価格:250円
寸評:オールドロックの高額盤の多く揃った高円寺のBE-IN RECORDSは、オリジナル盤信仰の薄い自分としては頻繁に行くことのない店なのですが、フラッと入ってみたらCD全品50%オフのセールを催しており、何枚か購入。佐々木幸男はポプコンをきっかけにデビューし70年代後半から長く活動するニューミュージック系のシンガーソングライターで、デビューLPの『ほーぼー』(77年)を始めとして良質な作品を多くリリースしている人です(個人的には82年の『Yes』が特に素晴らしいと思います)。これはCD時代に入ってから久々にリリースしたアルバムで、ロンドンで活躍する日本人ベーシスト、クマ原田のプロデュースの元現地録音されたもの。原田まわりの手練(ジェリー・コンウェイ、マックス・ミドルトン、スノーウィー・ホワイトなど、かなり豪華)が全面参加しており、なによりもまずオケの質が相当に高い。米国録音の同様企画もこの時期多発していますが、それらのようにアッパー&シャイニーにすぎず、英国ソウルの伝統を感じさせる硬質なアレンジなのが良いですね(好みが分かれるかと思いますが、ホワイト・ブルース色も有り)。佐々木のスモーキーな声質にもよくあっているように思います。彼の自作曲はニューミュージック的な湿り気を帯びたメロディーを持つ曲が多いのですが、こういうアレンジを得ることでむしろ輝きを得ている気もします。ベストトラックはメロウボッサ⑨か。ちなみに本作、伝説のライトメロウ系ブログ「Music Avenue」でも取り上げられていました。

 

 

5.

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アーティスト:アンディーズ
タイトル:アンディーズ
発売年:1996年
レーベル:ソニー
入手場所:高円寺BE-IN RECORDS
購入価格:150円
寸評:Tスクエアのギタリスト安藤まさひろが後にバンドへ参加することになるキーボーディスト難波正司と組んだユニット「アンディーズ」によるアルバム。Tスクエア本隊もそこまで聴いているわけでない私ですが、冒頭、いきなり私が苦手とするかのバンドの要素が増幅されたようなハードフュージョンチューンが飛び出してきてなかなかツライ……と思っていたところ、元シーウィンドのポーリン・ウィルソンをヴォーカルに迎えたアップリフティングなライトメロウチューン④で、ありがとうございます。続く⑤や⑦も品の良い生音系フュージョンで悪くありません。それにしても、帯に大きく「脱ジャンル宣言」とあって、どんな音楽なんだろう?と期待していましたが、フュージョン、ロック、AOR想定の範囲内で料理した印象を超えるものでなく、そりゃそうか……という感じ。

 

 

6.

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アーティスト:斎藤岳司
タイトル:光・響・詩
発売年:1997年
レーベル:ナチュラルヒーリング
入手場所:ブックオフ阿佐ヶ谷店
購入価格:500円
寸評:氣功師/ヒーラー/神秘研究家の刑部恵都子が主宰するナチュラルヒーリング研究会というニューエイジ団体が制作したオリジナルCD。その時点で最高潮に抹香臭い極北的ニューエイジで、こういうものは往々にして音楽的には残念なものが多い印象なのですが、本作はかなりイケます。まずそのコンセプトがすごい。研究員(?)23人とともにギザのピラミッドまで赴き、暗い玄室内で耳にしたという(?)光の精霊達が奏でる音楽を再現する目的で作られた由。実際に音楽を制作した斎藤岳司という方がどういうミュージシャンなのかもまったくわからないのですが、時折モロにクラウス・シュルツェ〜伊藤詳系譜というべきシリアスなシンセサイザーミュージックを聴かせてくれるのでした。①や⑧あたりはかなり良いのでは。とはいいつつ、このCDの主役はあくまで刑部恵都子先生であり、彼女の霊妙な語りが大フィーチャーされています。その内容はもちろん、声質や話し方も含めてなかなかすごい雰囲気です。

 


7.

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アーティスト:向後隆
タイトル:音の礼拝
発売年:1993年
レーベル:プレム・プロモーション
入手場所:ブックオフ阿佐ヶ谷店
購入価格:510円
寸評:向後隆は、芝浦工業大学・電子工学科出身で、卒業後は赤井電気の電子楽器開発部署にてシンセサイザーの企画/開発にあたっていたという経歴の持ち主。その後86年からインドに渡り演奏修行を重ね、ベンガル地方の弓奏楽器とシンセサイザーを使った環境音楽を制作してきた人で、Awa Recordsの名コンピ『しおのみち二の巻』に参加していたり、ポップス系のレコーディングにも顔を出すなどかなり広範囲に活動しており、単独作もかなり多くあるようです。これは俗流アンビエントの名門であるプレム・プロモーションから93年にリリースした作品で、ヨガ体操実践のための背景音楽として使用することを推奨されています。よくあるインド古楽器系のニューエイジかと思えばそうでもなく、抑制的なメロディーや浮遊感あるハーモーニー、シンプルな構成はかなり正統的環境音楽を思わせるものであり、イーノからの影響も色濃く感じます。打楽器を交えたミニマルな曲も好ましい。そういわれると、ジャケットにもどこか品格がありますよね。

 


8.

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アーティスト:山木秀夫
タイトル:Tentelletsque
発売年:1990年
レーベル:創美企画
入手場所:ユニオンレコード新宿
購入価格:650円
寸評:マライアでの活動をはじめとして日本の音楽シーンを表から裏から支えまくってきた天才ドラマー山木秀夫のファーストソロ作。これは素晴らしいアルバムです。元々生田朗のプロデュースで制作が進められていたらしいのですが、氏の死去により途中から吉田美奈子がバトンタッチして完成させたアルバム。生音と打ち込みの棲み分けが判別し難い部分があるのですが(それくらい巧みなプロダクション)、ドラムと時折聴かれる吉田美奈子のヴォイス以外基本的には打ち込み中心なのかなと思います。コンピュータープログラミングを担当しているのが椎名和夫だというのも面白い。内容的には全編今こそ聴きたい硬質な和レアリック、電子ファンク、アヴァンギャルドジャズ、ポストモダン民族音楽のオンパレード。ペッカーとの仕事などもそうですが、吉田美奈子アヴァンギャルドサイドが炸裂しまくっている印象で、山木氏はもちろん、改めて本当に偉大な人だなと再認識。⑥には近藤等則氏(安らかに……)も参加。96年にMIDIから再発されているようですが、この初出盤含めてあまり出回っているのを見かけません。アナログ再発されたらけっこう話題になるはず。

 


9.

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アーティスト:不明
タイトル:効果音楽大全集 マルチメディア「音ネタ」シリーズ⑪ セレモニー編
発売年:1998年
レーベル:キングレコード
入手場所:ハードオフ東松山
購入価格:100円
寸評:キングレコードが得意とする「効果音楽」(ホームビデオや式典などで主に素人が任意に使用すべく作られた実用音楽)連作の中でもひときわ派手なネタが入っていることから、見つけるたびについつい買ってしまう「マルチメディア「音ネタ」シリーズ」の中の一作。各種セレモニーで使用しやすいチャイムやオープニング/エンディング/映像BGM向け音楽(やジングル)が全60トラック収録されています。目当ての「オープニング音楽」と「紹介VTR」のパートにやはり面白いものがありました。異様にメロウな打ち込みフュージョンや、バウンシーなハウスなどが混入しています。例によって製作者は不明。DJの一曲にオープニング用音楽をかけて登場したらかなりウケるのではないでしょうか。数学の教科書みたいなジャケットも良い。