〜ドリームド・ポップ〜 音楽<再評価>の昨今 竹内まりや「Plastic Love」によせて

今起きている「再評価」は、かつてより脱文脈的になってきている。ある特定のジャンルについての見識、歴史的見取り図を蓄積していくことがのプレイヤーになるためのメンバーシップだったのに対して、今ではそういった蓄積を介することなく、の出会い(Spotif…

<ニュー・エイジ>復権とは一体なんなのか 2

本稿は、昨今巻き起こっている<ニュー・エイジ>復権についての論考第二弾である。前回の記事では、ミシェル・ウエルベックによる長編小説『素粒子』のエピローグにおける著述を参照しながら、現代の状況に呼応する(と思われる)その現象面と社会に内在しいる…

<ニューエイジ>復権とは一体なんなのか

ミシェル・ウエルベックの出世作となった長編小説『素粒子』のエピローグ。20世紀から21世紀へとミレニアムが移行する只中、20世紀の量子力学によって切り開かれた成果をもって分子生物学を不可逆的に発展せしめた主人公(の一人)ミシェル・ジェルジンスキの…

白塗り 4

次の週、一段と冷え込みが厳しくなり、空気が頬を差すような日の夕方、男はいつもの通り夜学の授業を受けるため、高校の門をくぐった。今日の一時間目は国語だ。普通高校の教師を定年退職したあとも、夜学の教師として教壇に立ちつづける磯島先生が受け持つ…

白塗 3

あくる年のその日は、冬の眠眼からお天道が気まぐれに起き抜けてきたように、陽の光が冬の靄を優しく包み込む穏やかな一日だった。男は寝具店の定休日である水曜日を利用し、日用品を買い求めに駅前のスーパーへ向かった。スーパーへ着くと、売り場を往来し…

白塗 2

男は西松町に寝具店の一人っ子として生まれた。父は男が幼い時から病弱で、男が地元の中学を出る頃には日がな一日病臥する生活を暮らしていた。だから、男は高校へ上がるなり夜学へ通いだし、昼間はよく家を扶けた。そのころは母も店にたっていて、二人で仕…

冬の霧

その日も、同じように朝起き抜けて、体がしびれてしまうほどの冷たい空気に囲まれていた。眠さの抜け切らない体に清涼を取り込むことで体がようやくわなないてくる、だから冬はそうして、いつも寝間着のままで深く乾いた空気を吸い込む。南に面した土間から…

絶対零度の社会性

物質が、その細分単位である分子が、運動をやめて沈黙するときに、温度は絶対零度となる。これ以上低くなりようがない極点として、物質的存在はすべて動きを停止し、停止したゆえの結果として、それ以上には下回ることのない結束点として、超低温をわれわれ…

曲がり道

もう一昨年前のことになるけれども、わたしがそれまで8年を越えて住み親しんだ上板橋から、練馬区の関町へ越してきた。以来、職場がそう遠くない方面にあることを理由に、移動をする手段としては自転車を選択したのだった。わりと値の張る(自慢の)ロードバイ…

信じるということ

一体全体、「信じる」というのはどういったことなのだろう。日常的な語彙としては、「信じる」とは、自分以外の他者がなにがしかの行動や言動を行う際に、それを観察・感受する側である人称が、彼がおこなったことについて、自らが敷衍する規範に乗っ取り、…

土の中

乾いた道 黄色のラバーの凹凸の ひび割れたその端から 裂け目がのぞく 下にはただ土がある 死んだ土 ダイキとユウキ 大きな建物の前で 待ち合わせて 互いの名を呼び 両手を高く上げ交えて ピシャリという音が空気を切り裂く その後には空が残る なにも含まな…

梢を離れて

今から2年前。29歳になったばかりの頃。街の空気もいよいよ肌寒さを孕んでいくその日、次にひとりで住むことになる街はどんな街なのだろうという茫漠とした思いを抱きながら、僕はバスに乗っていた。この街にはそれなりに長く住んでいたはずなのに、慌ただし…

白塗 1

「白塗」 1. 男は毎朝早朝に起床をする。大体5:30〜6:00の間には起床する。起き抜けてすぐ、日課のジョギングのため、近くの小学校の外周を約3〜4周する。今より年若の頃でも、朝のジョギングの習慣をもっていた男ではあったが、その時分では、周回数はせい…

クリーンナップする

例えばウォーホルのファクトリーにおいても、日毎夜毎に参ずる、自称・他称・あるいは誰彼が「称する」などといった前置を必要としないほどにそこへ必然として参じてしまっていた「クリエイター」連中が、参じていることそれだけで痕跡を残すように、その場…

「経」と不変

さいきんは「経たな〜」という感慨、それはまあ碎いて言えば年取ったな自分、ということなのであるけれど、そういう感慨が深い。いや、自分の年嵩からすれば、異様に深すぎる、ような気がする。そして、なぜだかこの感慨が実に心地よい。みなさんはどうです…

2015年7月頃 朝の上板橋

まだ雨は上がらないのだろうか。いや、この部屋から聞こえてくる雨音にはいつも独特の響きがこもったものであるため、私は今自分の耳に聞こえてくる音が果たして何によるものであるのかということに、確信を持つことが難しい。「聞こえてくる」という表し方…