CDさん太郎 VOL.3 2019/2/13購入盤

こんばんは。本記事は、<次のレアグルーヴはCDから来る>を標語とする(?)、CD特化のディグ日記シリーズ「CDさん太郎」のVOL.3になります。今回は2019年2月13日、東京下北沢〜吉祥寺界隈で購入したCDを6枚紹介します。

(本シリーズ要旨、並びに凡例は第一回目のエントリをご参照ください)

shibasakiyuji.hatenablog.com


 1.

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アーティスト:マジカル・パワー・マコ
タイトル:Hapmoniym 1972-1975 #3
発売年:1993年
レーベル:Mom 'N' Dad Productions
入手場所:ディスクユニオン下北沢店
購入価格:640円
寸評:今の若年世代にはあまりリアリティを感じられない話かもしれないのだけど、私の世代(ゼロ年代に20代を過ごした世代)にとって、マジカル・パワー・マコはもはやその名の響きだけで聖典の如き重みをもっていました。「いました」と過去形で語っているのは、その当時、マコや、あるいは70年代のジャパニーズ・アンダーグラウンド・ミュージックを異様な熱量で崇拝するという<音楽好き>の行き方が、その後の世代にあまり継承されていないような気がするからなのですが…。いまも覚えているけれど、大学生1回生だった私に、「灰野敬二聴いたことないのかよ?ブッ飛ぶぜ」というような言い方でもって、今風に言えば<マウンティング>してきた自称アングラ趣味の先輩たちに対して言いようのない不信感と胡散臭さを感じていたわけだけれども、ようやく今になって、そういうイヤったらしさを超えて、冷静にその音楽を聴ける機運が巡ってきた気がします(それらのセンパイたちは今何をしているんでしょうか?元気でいてほしい)。これが所謂<サブカル調>ファッションとして消費された時代があったという目を覆いたい事実は、日本の音楽受容史にとって改めて不幸だったなあと…思う…。そういう呪怨も綺麗サッパリ過ぎ去った今、この音楽はあらためて本当に本当に素晴らしいと思います。伝説のポリドール諸作の前後、10代後半のマコが自宅などで録りためていた実験の数々。今聞くなら眩しいほどにピュアで、ポップ。アナログ・シンセサイザーとのピュアネスあふれる格闘と遊戯、密室的熱量、そこから突き出ていく(良い意味で)自己目的的で健全な実験性…。それらに、ファウストやフローリアン・シュナイダー、コンラッド・シュニッツラーらとの共通点をほじくり探すのは易いけれど、それ以上に、現在のインディペンデントなDTM作家に通じる濃密な<独り>性と、それが必然として求める社会性への言いようのない渇望を感じ、とっても愛おしく切ない気持ちに…。宇川直宏が100万円で譲り受けたこれら音源は93年に全5集に渡ってリリースされたのですが、この3集はその中でも特にやりたいことをやっている感じで、今こそ実にチアフルな力に満ちていると思います。

 

2.

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アーティスト:ツトム・ヤマシタ
タイトル:太陽の儀礼 Vol.1
発売年:1993年
レーベル:佼成出版社
入手場所:ディスクユニオン下北沢店
購入価格:280円
寸評:上記マコにくらべて、ツトム・ヤマシタのその当時(ゼロ年代)における評価の低さと言ったら。というか、ほとんど語られること自体がなかったんじゃないでしょうか。かくいう私も、英アイランドからの諸作を、スティーヴ・ウィンウッド一派や英プログレッシブ・ロックの文脈でしか捉えておらず、匂い立つ抹香臭さでその音楽的真価については無関心だったような気がしています。ツトム・ヤマシタに関心を覚えたのは正直ここ最近。少し前から70年代の諸作をコツコツ聴いているのですが、90年代からのアルバムについては、さすがに昨今のニュー・エイジ再評価がなければ触れようとすら思わなかったかもしれません。これは立正佼成会の出版部である佼成出版社(ここはレーベルとしてもかなり面白いディスコグラフィーを抱えているので、要再考証)から出た93年作。1992年に延暦寺根本中堂において天海大僧正三百五十回忌記念として、比叡山焼き討ちの犠牲者と織田信長の慰霊・世界平和を祈念して初演されたものを、後日スタジオ録音し直したもの。この当時、寺院での大規模奉納上演がブームだったこともあるのか、演奏自体への気合の入り方がスゴイ。70年代の諸作より更にコンシャスで、流石に海外リスナーですら敬遠しそうな紫煙舞うニューエイジ、というかエクスペリメンタル。リスニングには体力を要しますね。今後もリイシューされない予感があります。

 

3.

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アーティスト:宮下富実夫
タイトル:音薬
発売年:1994年
レーベル:BIWA RECORDS
入手場所:ディスクユニオン下北沢店
購入価格:108円
寸評:元ファーアウト、ファー・イースト・ファミリー・バンド宮下富実夫は、不肖柴崎による俗流アンビエントミックスでも取り上げたし、私個人でもことあるごとに言及しているので「またかよ!」という方もあるかもしれないのですが、すみません、またです。この人、80年代以降、それこそ誇張でなくJandek並のリリース数を誇っている(ニューエイジ作家異常多作説の一例)ので、見つけるたびにダラダラと買ってしまうのですが、そのどれもが素晴らしいのですよね…。これは、<音の薬>、『音薬』と名付けられた94年作で、いつもながら自身の演奏によるシンセサイザーのステディかつゆったりしたビートとドローン、そしてユラユラと浮遊するフレーズが反復するお馴染みの世界なのですが、まあ良い。ジャケット通り7つのチャクラに連関した曲が収められています(知らんけど)。推薦の言葉として、ブックレットには聖路加国際病院日野原重明(R.I.P.)先生のお言葉入り。余談ですが、こないだ下北沢シェルターで観たnakayaan bandのライブ、ファー・イースト・ファミリー・バンドのようなジャム・チューンを演っていて凄く良かった。

 

4.

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アーティスト:BEERS
タイトル:MISTRESS
発売年:2016年、オリジナル 1983年
レーベル:徳間ジャパンコミュニケーションズ
入手場所:ディスクユニオン下北沢店
購入価格:640円
寸評:斉藤恵と橋本ヨーコによる男女デュオBERRSが1983年にBourbonレーベルからリリースした唯一作。和モノ・ライトメロウ〜シティ・ポップファンにはおなじみですが、一時期怒涛のごとくタワーレコードがメジャーレーベルと組んで自社限定流通でリイシューしたシリーズ「Tower to the people」中の一作として2016年に発売されたものです。MURO氏がミックスに収録したキラーチューン「壊れたワイパー」を聴きたくて購入したんだけど、このBeersのCD、最近やたらユニオンの店頭在庫に出現する気が…。私が今回買ったCDは開封済だったのでそういうことはないのかもだけど、タワーのダブつき在庫をユニオンへ転売して一斉放出しているのかな?と邪推するほどの遭遇率です。ということで、値段推移を見守っていたのだけど、1,000円切りつつしかもこの値段になっていたので購入。やっぱりなんといっても「壊れたワイパー」がダントツのズバ抜けで素晴らしいですね。盤石の新川博アレンジ。他曲もフォーキー・テイストとライトメロウの奥ゆかしい合体って感じです。大名盤とは言わずとも、素敵な佳作という程よい色香。書ききれないほどの編曲、演奏陣は以下。新川博(key, synth)、椎名和夫(g, vo)、岡沢茂(b)、山木秀夫(ds)、木村誠(perc)、Jake H. Concepcion(sax)、沢井原兒(as)、新井英治(tb)、数原晋(tp)、小林正弘(tp)、鈴木宏昌(key, synth)、松木恒秀(g)、長岡道夫(b)、富倉安生(b)、田中清司(ds)、ペッカー(perc)、渡嘉敷祐一(ds)、多グループ(strings)、巨匠グループ(strings)、斉藤ノブperc)、桐ヶ谷兄弟(vo)、伊藤広規(b)、岡本郭男(ds)。「ああ、レコードって売れていたんだなあ…」というめちゃ豪華な布陣。

 

5

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アーティスト:ボサノバカサノバ
タイトル:セカンド キス
発売年:1995年
レーベル:イースタンゲイル
入手場所:ブックオフ吉祥寺店
購入価格:500円
寸評:SHO1(田村庄一)と吉澤秀人による、現在は群馬県前橋市を中心に活動するユニットによるセカンドアルバム。発売元のイースタンゲイルというのは寡聞にして知らないレーベルだったのですが、ビクター傘下のメジャーということになるようです。元はチューリップやオフコースに影響を受けたフォーク調ニューミュージック・デュオということらしいのですが、音楽的にはそれらよりややライトメロウ寄りで、いうなれば…ブレッド&バターをややJ-POPオリエンテッドにした感じ。こういうものを掘るとき、私もすっかりlight mellow部マインドが発進する感じになっているのですが、そういう文脈からいってもなかなかの佳作じゃないでしょうか。その名前通りボッサ調の曲もありますが、実際の印象はもっとMOR的。アップリフティングなシティ・ポップを期待すると肩透かしかもしれませんが、南佳孝杉真理などを彷彿とさせる歌声の甘酸っぱさやアレンジのトレンディぶりに好感を抱かざるを得ないですね。(ちなみにジャケットに写っている女性は音楽に参加しているわけではないようです)。特にM1「Be Happy」、M5「涙のノーマジーン」あたり、良曲です。彼らは現在地元群馬県を中心に北関東地区で活発にライブ活動を行っているようです。ウィキペディアが異様に充実しており、ユニット、個人ともにアクティブなTwitterアカウントもあることも確認できました。

 

6.

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アーティスト:IZANAGI
タイトル:開雲来光
発売年:不明(1990年代後期?)
レーベル:NATURE SHOWER MUSIC
入手場所:ブックオフ吉祥寺店
購入価格:280円
寸評:これが今回最も注目すべき盤です。おそらく完全にインディーズな俗流アンビエントのため、例によってほとんどネットに盤自体の情報がないのですが、IZANAGIという愛知県を中心に活動するDIY楽家による一作のようです。このIZANAGI氏、今回初めて知ったインディーズ系シンセシストなのですが、無数の霊峰に登山を繰り返し、その山頂や山腹や峠で作曲を行いCD作品としてリリースし続けている固い固い信念をもったアーティストだということがわかりました。

www.geocities.jp

くどくどと私が言葉をつぐよりも、上記ホームページを観ていただくと氏の特異な活動について得心していただけるでしょう。誇張でもなく、これまでJandek並の(それ以上か?)のリリース数を重ねる超多作家なようで、コンサートについても様々な老人ホームやセミナー、フェスタで多数行ってきた由。この、HTML感あふれる初期インターネット的なホームページ・デザインに、とにかく私は感動しました。伝えたいことが、ある。これこそJPニューエイジの極北と言えるでしょう。本作は白樺峠、大台ケ原、乗鞍岳山頂などで作曲された自作曲を集めたCDで、歌謡性満点のペンタトニック・シンセサイザー音楽。完全に日本独自の文化ですね。最後に、最高すぎる氏の演奏風景を捉えた写真を貼っておきます。

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