70年代ジャパニーズ・アンダーグラウンドの秘宝 “Eternal Womb Delirum – #1” レビュー

以下のテキストは、2019年に某媒体向けに執筆するも諸事情で未発表となっていた拙稿である。

ここに供養するとともに、向後の資料としてアップしておく。

 

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Eternal Womb Delirum “Eternal Womb Delirum  #1”レビュー

 

現アイドルジャパンレコード代表で制服向上委員会のプロデューサーでもあった髙橋廣行が、灰野敬二らと組んだ伝説的バンド、ロスト・アラーフのドラマーだったことは(一部マニアには)よく知られているだろう。裸のラリーズ等と並んで、70年代ジャパニーズ・アンダーグラウンド・シーンの中枢で活動してきた彼の、「ロスト・アラーフ」以後における秘蔵音源がこの度発掘リリースされた。

「エターナル・ウーム・デリラム」という謎めいた名を持つこのユニット、当時の活動に接することのできた幸運な聴衆や、よほどコアなファン以外にはその存在を知られていなかったというのが実態だろう。かくいう私も、かつてロスト・アラーフや裸のラリーズ周辺についての資料を渉猟する中で髙橋氏自身の同ユニットについて言及したツイッター投稿にあたり、おぼろげにその存在について認識していたくらいだった(その時からこの不可思議なユニット名が頭に残っていたのだ)。だから、その演奏が当時録音に残されているなどとは思っていなかったし、ましてや高橋氏本人の公認のもと、こうして正式発売されるなど、夢にも思っていなかったのだった。

「エターナル・ウーム・デリラム」とは、「永久に子宮は発狂状態」あるいは「永遠に湧き出る子宮からのリズム」という意である。高橋氏の談話をまとめたライナーやCD帯掲載のテキストによれば、特定の音階や具体音が人体にどのような影響を及ぼすかといった興味を出発点に、「知ることのできない自己の未来像を音の魔術で描き出そう」としたということで、非常にスピリチュアルな内容を想起させもする。が、その実音楽内容としては、先行するロスト・アラーフなどと同様、非常にストリクトな即興演奏を主体としたものであり、コンセプト面から想像させるようなニュー・エイジ的様相とはかなり隔たったものである。本CDの目玉というべき74年六本木俳優座劇場での演奏記録①「母体内に回帰されたその目覚めと幻想」は、その出会いにより高橋がこうした表現に開眼するきっかけとなった現代音楽作家・有田数朗氏が電子音を、そして氏の後輩であった(当時)東京芸術大学の学生・坂本龍一がピアノを担当している。そこへ高橋のパーカッションやOZバンドの毛皮のJUNらのギターが加わるという内容なのだが、アシッドなジャム・セッションというより、極めて透徹した覚醒的な演奏が36分間繰り広げられている(実際は2時間近く演奏されたらしい)。偶発的に立ち現れるカオティックな和音や複層的リズムは、この当時の前衛の薫りを濃く漂わせながらも、実に理知的な統御が働いていることを思わせる(特に坂本)。演奏中、観客の一人をステージに上げ、心電図や脳波を撮って見せるというような趣向もあったというから、まさに実践的かつ前衛的な音楽実験でもあった。

続く②「やっぱり」と③「雲の柱」は、①とは全く異なったアプローチで行われた演奏。75年の11月と12月にそれぞれ渋谷アダンスタジオと新宿開拓地で敢行されたセッションの記録で、高橋がロスト・アラーフのツアー中に京都で出会ったバンド<だててんりゅう>のヒロシをボーカル/ベースに迎えている。①と比べるとまだ「楽曲」と呼ぶべき輪郭を保っている曲で、いわばロック的な表現が聞かれる。②で暴れまわるスリージーで激烈なギターはノンクレジットなのだが、もしかするとこれは水谷孝氏によるものなのではないか…?と推測。さらに③ではヒロシがボーカルとベースに加えキーボードを演奏しており、本CD中もっともオーセンティックな(ヴェルヴェット・アンダーグラウンドにも似た)ロック的演奏を聞かせる。しかしながら、②も含めて突如全員でフリー・インプロヴィゼーションに突入する構成が実にスリリングで、当時において、ロックとアヴァンギャルドに間にある垣根が非常に低いものであった(というかおそらく相互還流的ものであった)ことが鮮やかに伺われるのだった。

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